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地上最大のロボット(ゴジ博士編)

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ボラー 驚嘆の創造力!!アトム世界第一の発明“オメガ因子”を超越する地上最大のロボット!!
「アトム」について他の章でも扱う事になるが、この作品を語る上で“オメガ因子”と“ロボット差別”については外せないものがある。オメガ因子とは、おそらく80年代にリメイクされたTVアニメ「アトム」で「地上最大のロボット」に次いで有名になった「アトラス」の章で扱われた“悪事を為さしめる装置”の事である。これはけっこう重要なことでアトムの世界ではどうもロボットは造られると同時に“良心”を持っており、わざわざ“オメガ因子”のような装置をつけないと悪事がはたらけないようなのだ。現代の僕らとしては“善い事”を定義してやらないとロボットはいくらでも悪い事を(それと意識せずに)やらかしつづけてしまいそうに思えるが、手塚先生の世界では「アトム」に限らずロボットはかなり無垢な、つまり性善説の存在として描かれている。逆に“ロボット差別”を止める事はない人間を性悪説として描いている。これはちょっと面白い現象なんだけれども、詳しく語るのは別の機会に譲るとして、そういうワケで基本的にアトムの世界ではロボットが進んで悪事をあたらく事はなく、結果として悪いことをしても相応の理由があるというのが暗黙的なルールとなっている。プルートゥにしても親であるサルタンがそう命じているので(それも人命を奪う命令ではないで)やっているワケで「実はやりたくない」という心中まで吐露しているワケなのである。

そこらへんの話を踏まえた上で、本題に入るが「地上最大のロボット」について、アトムファンが寄り合って話すと出てくる、ある重要な結論がある。それは「結局、地上最大のロボットって“あの召使い”だよねえ」というモノだ。
おそらくは世界中を震撼させたであろう地上最大のロボット事件。それはサルタン一人の力では成し遂げられない。サルタンは科学者ではないから当然、そういう違法な破壊ロボット・プルートゥを造るものが必要になってくる。それがサルタンの雇われ科学者アブーラ博士である。サルタンとアブーラ博士の出会いは描かれる事はない。気がつくと寄り添うようにサルタンをパトロンとしてアブーラ博士はおり、サルタンに様々な助言を与えて行く。そしてランプの精霊のように魔神のごときプルートゥをサルタンに与え、その悪事に協力するのである。
やがてほとんどのロボットを壊した最後の詰めに揚々とするサルタンの前に、ゴジ博士という男が現れる。彼はプルートゥの百万馬力を上回る二百万馬力のロボット・ボラーを連れていた。二百万馬力という驚異の数値はアトムの世界を通して空前絶後である。おそらくは人類未踏の数値だったのではないかと思われる。そしてそのロボットは本当にプルートゥを壊すためだけに造られたのである。(というかこのボラー簡単に壊れ、けっこう安い造りだったと思われる。一回闘ったらもうおしまいみたいな造りだったんじゃないだろうか?)
召使い そしてプルートゥもボラーも消え去ったその時、その事件の全てが同一人物であるアブーラ博士とゴジ博士によって手引きされた事が分かる。彼はサルタンに覇権を求めることの下らなさ、虚しさを教えるためにこの計画を立てていたのだ。その正体はかつてサルタンの召使いであり、名前は遂に語られる事はなかった。だからアトムファンたちからは、ある種の畏敬(?)を込めて“あの召使い”と語られるのである。これが「地上最大のロボット」の顛末である。

アブーラ博士はサルタンと共に悪事をはたらきながら、ゴジ博士はその野望を打ち砕くために画策する。対極的に観ればこの召使いロボットもオメガ因子を持たない性善のロボットといえるのかもしれない。しかし、考えても観て欲しい。これまで「アトム」の中には悪事を働く人間につかえながらそれを止めさせようと行動するロボットは確かにいた。しかし、彼らはことごとくそれに失敗している。何故か?説得の仕方があまりに無垢でストレート過ぎて欲にかられた人間には返って逆効果だったからである。アトムからして誕生の秘話「アトム大使」がそんな話だ。「お父さん!そんなことはやめて!」という捻りのない説得の言葉に天馬博士は耳を貸すことはなかった。
だが、多大な犠牲を払っているとはいえ、この召使いロボットはサルタンの改心に成功している。それは周到な計画に基づいて行動しその間サルタンの目を欺きつづけることに成功しているからである。そう、欺きつづけたのである!こんなロボットはアトムの世界で彼ただ一人である。プルートゥやボラーを製作する高度な頭脳もさる事ながら、前章のエプシロンをも超えるかもしれない精神性の高さが、僕が彼を地上最大のロボットと言わしめる理由である。皮肉な話だがサルタンはとっくの昔に地上最(偉)大のロボットと共に暮らしていたのである(笑)

まず事の起こりは国民から政権を奪われ寂しく暮らすサルタンとあの召使いが居たとしよう。そしてこれは想像だが、サルタンの家族は描かれる事がないのだ。物語上必要なかったからと言えばそれまでだが、彼のプルートゥに対する歪んだ愛情はもしかしたら息子に接するものだったかもしれない。プルートゥ(プルトニウム)とアトムの名前の符合に合わせて、彼はその後狂気に走る天馬博士とかなり似ている面がある。あるいはサルタンにそんな“玩具”を与えなければもしかしたら彼は残りの財力に明かしてアラブ世界の覇権を取り戻そうと画策し人命に甚大な損害を与える事を考えたかもしれない。召使い事アブーラ博士はまずそれを阻止する必要があったのではないか?
なんか頭からスプリングが飛び出ててポンコツそうなのに(いや、あのスプリングが実は凄い装置なんだ!…という噂もある)その天網恢恢っぷりが神性さえ漂わせるロボットである。では彼を誰が造ったのかは全くの謎である。不思議なロボットである。
2003/08/24

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