私の愛した悪役たち VOL.9
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第81回 ブラックオックス(鉄人28号)
ブラックオックスは本当にカッコイイ……。シンプルなブラックボディとつり上がった眼、そして角は、ロボットの持つ根源的なカッコ良さを全て内包していると思う。「鉄人28号」において、おそらく最強のロボットはブラックオックスだろう…と書き出してはじめようと思ったのだが、実はこれは検証の必要がある。「鉄人28号」には本当に魅力的で多様なロボットが多数登場するからだ。さらに言えば「鉄人28号」のテーマそのものが「良いも悪いもリモコン次第」→「強いも弱いも操縦者の智恵次第」と言える面もある。しかし「鉄人28号」の初期に不動の人気を得て行く過程で、もっとも活躍した天才科学者はフランケン博士であり、その博士の遺作にして最高傑作とも言えるブラックオックスを鉄人の最大のライバルロボットと認めない人はいないであろう。…というより鉄人vsオックスについてはもうハッキリしていて、これは完全に鉄人の負けなのである。何でかっていうとオックス最大の特徴は妨害電波を出すロボットだからだ。これは無線通信でのリモートコントロールで操縦される鉄人はどうにも無力化されてしまう事を意味している。それはもうジャンケンのグーとチョキのように、どうしようもなく勝負はついてしまう。その後の少年マンガであれば、根性というか精神力というか何か説明できないような気迫(エネルギー)が鉄人に伝わっちゃったりして動いてくれたりするのだけど横山先生は本当にそういう事をしない方で(笑)ガーン!と鉄人とオックスがばっぷり四つに組んだと思ったら、即座に鉄人は無力化されてゴロンとオックスに転がされてしまう。それが鉄人とオックスの関係であり、その無情淡泊な描写には僕は本当に惚れ惚れしてしまう(笑)正太郎くんにしてから…無情淡泊に無力化される鉄人を見て「動け!動け!動け!動け!動け!動いてよ〜!今、動かなくっちゃ何にもならないじゃないか〜!!」とか絶叫したりしないで「ん、じゃ、ま。それはそれとして…」とばかりに新たに智恵を絞り出すのだ。いや、絶叫したり無駄に熱いのが駄目って事じゃなくって(汗)この「冷静に智恵を絞る」というのは横山光輝先生の作品において共通する下地だと思います。
同時にそれはブラックオックス事件(そして一連のフランケン博士の事件)がオックスが強いまま解決してしまうという結果になりますます僕はオックスに惚れてしまうことになるワケだ(笑)しかし、このたとい主人公ロボット(鉄人28号)であろうと弱点をつかれれば弱いし事件がそのままで解決すればとくに鉄人の面目を保とうとも思っていないという、横山光輝先生らしい感性は、そのままオックスの運命をも決定して行く事になる。
さてオックスの最期の話をする前に、一つ将棋の川柳を紹介したい。「へぼ将棋、王より飛車をかわいがり」というものだ。目的を見失わないようにする諺としても使われるこの言葉だが、横山光輝先生は正にこの「へぼ将棋」をしない感覚で作品を描かれており、金田正太郎は間違いなくその体現者の一人である。……しかし、僕は言いたい。力説したい。本当はみんな飛車が可愛いのだと!
オックスの最期はこうだ。「超人間ケリー」編において、ケリーが操るロボット・ギルバートと鉄人が対決するのだが、両者互角で今ひとつ決め手に欠けると考えた正太郎くんは、以前、接収したブラックオックスを使って一気に決着をつける事を考える。(ここらへんにも基本、鉄人にこだわっていない正太郎くんの感覚が垣間見える)→オックスが到着し、その操縦には敷島博士が当る。→オックスの妨害電波はギルバートにも有効でギルバートもたちまち制御不全に陥る。→オックス溶解線を出す。→ギルバートも負けじと溶解線を出す。→両者の戦いが膠着状態に入ったのを機に大塚署長はケリーを警官隊で取り囲む(!!!)→結局、ギルバートは溶かされ、逃げられぬ事を知ったケリーは鉄人に体当たりして自決を果たす。→事件は解決する。
大体こんな感じの展開なのだが、最初僕はこの「超人間ケリー」編の面白さに夢中で、大満足で、ある重要な描写に気づかずに次のエピソードに移っていったのだが………あれ?オックスが出てこなくなったな?何でだろう?正太郎くんオックスもう使わないの…?……あれ?と思って単行本を遡ってみて、再び僕は「超人間ケリー」編のそのページに戻ってきて、はじめて気がついた。あああああああ!!!!オックスが溶けてるぅぅううう!!溶けてんじゃん!オックス!ギルバートと一緒に!!や〜め〜れぇ〜!!(涙)オックスを溶かさないでぇ〜!!!(号泣)オックスが鉄人を転がす無情淡泊な描写が素敵とか言った同じ口で言うけど、オックスを無情淡泊な描写で溶かさないでぇ〜!!!敷島博士!!もっと焦って溶解線をかわしたりしろよ〜!!なんで〜!?(泣)ぜったい「ふふふ……いいぞ。これでギルバートとオックスが共倒れすれば、残った鉄人で勝負は決まる」……とか考えてるよ!確かにあんたは将棋を分かっている!将棋を分かっているかもしれないけど………うわああああん!王より飛車が可愛い事の何が悪いんだよ!?こんちくしょう〜!!!……まあ、この無情感が横山作品の醍醐味ではあるんですよ?orz また、面白いことに悪役のフランケン博士の方が自分の造ったモンスターの死を悲しんだり(また生き返らせたり)、バッカスとモンスターの関係を兄弟と呼んだり「駒」に対する愛情が垣間見えたりするんですよね。そこらへん含めて横山作品はホント素晴らしいなあ…と。……ああ…オックス〜……(泣)
※この僕の話は秋田書店版の「鉄人28号」(全10巻)の体験が元になっています。で、最近、完全版「鉄人28号」(全24巻)を買ったのですが、その修復原稿では多少溶けてはいますがオックスの健在が確認できますね。完全版のカットの方が掲載内容としては正調なのでしょう。ただ「超人間ケリー」後ブラックオックスが登場しなくなったのは事実ですし、また単行本化の際に、意図せずオックス健在のコマを削除してしまったというよりは、全く同じ構図ながらオックスを消したカットにコマを描き直しているところを見るとここでのオックスの退場は(その後)意図されたと考える事もできそうです。
2008/03/12
第82回 ヘルサターン総統(太陽戦隊サンバルカン)
巨大な体躯。黒光りする鎧に身を包んだボディ。黒いマントを羽織り、いつも左手の鉄の爪をわさわさと不気味に動かしている…。(そして声は飯塚昭三さんだ)それが「太陽戦隊サンバルカン」の敵組織・機械化帝国ブラックマグマの総統・ヘルサターンだ。しかし、このサターン総統、長く続く戦隊シリーズの中でも一二を争う、アットホームな総統だと僕は思っている。(家族的と言えば「バトルィーバーJ」のエゴスも「弟よ!」とか言ってなかなかいい線行っているんですけどね)いや、アットホームって何?って言われると困るんですが…一言で言うと非情さに欠ける不器用な総統なんですね。そりゃ地球征服作戦は悪い作戦をいろいろ練るんですが…なんていうか…部下思い?な人で。ヘルサターン総統はごく初期に戦隊前作「デンジマン」の敵ボスであったヘドリアン女王を復活させて仲間に引き入れるんですが、ヘドリアン女王(曽我町子)が復活させてもらった恩も感じず総統を「機械人間ごときが!」と言い放ったのに対して、新たにサンバルカンが自分の野望の前に立ちふさがった事を知って昏倒せんばかりに悔しがるヘドリアン女王にヘルサターン総統は「(あいつらは)任せておけ!ワシが血祭りにあげてやる!」と元気づけるわけです。…あれ?総統、何でそんな頼もしい言葉かけてあげるんですか?畏れ多くも総統閣下に侮蔑語を使った人間に対して。それはあなたの手下っていうか手駒じゃないの?…と。冷酷非情で味方も平然と切り捨てるような悪の組織を多く観てきた僕は、この「気を配る」という行為にすごく違和感を感じたわけです。
そして、この違和感ってのはその場限りのものではなくって、とにかくこのヘルサターン総統。すごくヘドリアン女王を立てて扱ってあげるんですね。(正体、機械人間だから“女王”という単語に無条件反応しているのだろうか?)ヘドリアン女王が勝手な作戦や儀式をしていても怒らない。ベーダ一族の元行動隊長で銀河を荒らし回っていた“アマゾンキラー”を勝手にブラックマグマを呼び寄せても特に何も言わない(この時点でヘドリアン女王は組織乗っ取りを企んでいるくさいんだけど)。何時だったかは、美しいダイヤが欲しくって夜な夜なうなされているヘドリアン女王を見かねてダイヤモンド強奪計画の指令を出すほど優しい人だ。いや、もともと怪人(モンガー)なんかも時々できの悪いヤツが総統に失礼な口を叩いて周りは咎めるんですけど、総統自身は特に何も言わない…そういう人なんです。
…で、そんな総統にヘドリアン女王は感謝するのかというと、そんな事は一切無く(笑)当然、とばかりに女王らしい放蕩な振る舞いを続けて、最初は反目していた総統の親衛隊のゼロガールズを手なずけてしまう。そうそう。アットホームと言いましたが、機械化帝国ブラックマグマって、ラスト前に“宇宙海賊イナズマギンガー”が仲間になるまで、ヘルサターン自身以外、幹部は全員女性なんですよね。ヘドリアン女王も女、ゼロガールズの4人も女、アマゾンキラーも女。だから観ていると何となく4姉妹の女系家族の中で、やたらバイタリティのあるお母ちゃん(ヘドリアン女王)がお父ちゃん(ヘルサターン総統)を尻目に切り盛りしている家庭に見えてくる(笑)そんな中で口数は少ないけど、きっちり言うべき事は言ってあとは放任しているような…そういう妙な度量の広さと鈍感さを持ったヘルサターン総統の黒い鎧ボディから僕は目が離せなくなってしまったわけです。
ただ、このなごやか女系家族の物語は、先述した、長女=アマゾンキラーと、かつて恋人であり不良仲間でもあったイナズマギンガー……つまり来訪者(男)の登場によって一気に内部崩壊(=家庭崩壊)を迎えてしまうんですけどね。(このアマゾンキラーとイナズマギンガーの愛憎劇も相当に好きなんですがそれはまた別の機会とします)この際ヘルサターン総統は単に鈍感なだけの総統ではなくヘドリアン女王やギンガーの野心をある程度見抜いていた事が表わされ、ますます僕は好きになってしまったんですが、内部抗争の果てにイナズマギンガーとの一騎打ちに敗れてついにサンバルカンと剣を交える事なく破壊されてしまいます。その後、総統の亡霊が登場するのですが、これは総統が信仰していた“黒い太陽神”が造りだした幻影で本人ではないですね。
ヘルサターン総統で忘れられぬシーンとして第20話で夜中起きてきてビデオを一人で観ている描写があります。何を観ているかというと、それまでのサンバルカンとの戦いのビデオを観ていて。それで太陽剣オーロラプラズマ返しの時点で「うおおおおおおお!!」と錯乱して暴れ出し器物を破損して回る。総統の乱心に気がついて慌てて止めに入るゼロガールズ。ゼロガールズ「どうなされたのですか?」→ヘルサターン総統「い、いや…なんでもない…」と言って憔悴した様子で玉座に座り直す。→ヘドリアン女王「総統はここ数日、眠れぬ夜を過ごされておる。地獄へ堕ちきれぬ魂たちが眠りを邪魔しおるのじゃ…」………うわあああああああ!!(号泣)それって部下の死の無念を慮って憔悴しているって事ですか!?総統!?だって単に作戦失敗が悔しいなら失敗続きのゼロガールズに当たり散らせばいいんだもの!な、なのに、なのにゼロガールズにも気を使って「いや、なんでもない…」なんて…うわああああああ!!(号泣)そこにシビれる!憧れるぅ!!
…というワケでヘルサターン総統好きです(笑)戦隊シリーズも長いんで仲間想いだったり結束が堅い悪役ってのはけっこういるんですけど、この何というか不器用な気配りを持ったボスキャラって僕が知る限りはこの機械人形だけでしたね。ラストにこの組織は凄惨な内部崩壊を起すんですが、それもヘルサターン総統が部下に対して甘めの統率をしていた事が要因の一つであると同時に、他者が野心の牙を総統に向けなければ総統自身が何ら強行な手段に出る事はなかったんじゃないかと思っています。
2008/03/26
第83回 聞仲(封神演義)
「封神演義」は元々中国の伝奇小説だが、藤崎竜がこれに独自の設定、独自のキャラクター、独自のデザインを加えて創作されたのが藤崎竜版の「封神演義」だ。殷周革命の歴史の裏で起こっていた宝貝という不思議な道具を駆使した仙人同士の戦いを描いた…というのが大雑把な粗筋で、新連載当初は正直僕は、さほど心を動かされなかった。また、あまり藤崎竜という人はキャラクターのレパートリーが多い作家だとは思っていないのだが連載が軌道に乗るにつれ、「封神演義」という必然的に大量のキャラクターを生み出す必要がある作品を元にする事で、藤崎先生自身の限界のその先に行くキャラ造形で僕を楽しませてくれた。やたら濃いキャラで妙に活躍する「雲霄三姉妹」とか、自称平和主義者で「話し合おう」とか言うんだけど言っているだけの雰囲気な「普賢真人」とか、好きだったなあ…wそういうキャラたちが惜しげもなくバシバシ“封神”されて行く話の感覚もよかった。ストーリーテリングは元々ある人だったので、それを長期連載の中で仕上げる事ができてなかなかの秀作になったと思う。
さて、そんな中で殷の大師として殷王朝に忠誠を尽す、聞仲というキャラが今回、紹介したい「悪役」なのです。なんちゅーか、この人、すげええ好きなんですね。この作品のラスボスは紂王を誑かす妖狐・妲己…の、その先にいる者がラスボスなんですが、聞仲はその中盤の山というか表向きの「封神計画」の最終段階のボスキャラです。この人が好きなんです。この人も登場当初は何というかただ強いだけの人に見えたのですが、その最終決戦において、その強さの正体が分るにつれて、僕はこの聞仲というキャラに夢中になってしまった。…それはなにか?それは当初、ただ強いだけのキャラに見えた聞仲は、実は最後までただ強いだけのキャラだったのです!!……意味わかりませんか?すみません、ちょっと分らないように書きました。順を追って説明します。
聞仲はかつて殷からラスボス(の一歩手前の)妲己を追い出した事があったり、登場当初から滅茶苦茶強いキャラと言われていました。それが初めて戦場に立った時は太公望の勇者パーティをあっという間に(なんとか逃げ延びる事はできたが)全滅の危機に陥らせてしまう。聞仲の技は宝貝・禁鞭という数キロ先の敵をも打ち据えるというシンプルな技、しかし、それだけの技なんだけど本当に誰も歯が立たない。まるで抵抗できななかったんです。………でもね。この聞仲、本当にず〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと!最後まで、それだけの人なんですね。太公望たちが再び聞仲と相まみえる「仙界大戦」編では、もう物語は大詰めに入っていて、太公望側の「崑崙山」と、聞仲側の「金鰲島」の二つの仙道が相食む戦いは互いに全滅に近い損害を被って、それが殷を守ろうとする聞仲の計画だったとは言え、かなり追い詰められている。…で、そういう状況で崑崙十二仙に包囲された聞仲は、僕はてっきり「みせてやろう!私の真の姿を!!」とか「…ふ、とうとう私に“あれ”を使わせるか…」とか、そういう“奥の手”を見せてくれると思っていたんですね。現に、聞仲と同等の強さを持つと言われる趙公明や、ラスボスの女禍(あ、言っちゃった)は“真の姿”になっています。でも聞仲は、最初のあのときのまんま!!ブンブンと鞭を振り回すだけ!wでも、やっぱり崑崙十二仙とかも、歯が立たないんです!逆にまとめて封神されてしまうw
…そこに惚れちゃったんですよねえ…ふつ〜に奥の手を使っていたら、僕は「ふ〜ん?」ってな冷めた感じだったのですが、この「一つの技だけを一心不乱に練り上げた凄み」っていうんでしょうか?「封神演義」に出てくる宝貝って中には「こんなん!どうしようもないわ!w」って完全に「反則」のような能力を持つものがわんさかあるんですが、その中で如何にも何とかなりそうなムチで打つって技。なのに、それを誰も破る事ができないって、その「馬鹿の一つ覚え」っぷりの強さが凄く気に入ってしまった。
しかし、作中で最強のキャラと位置づけされている傍観者・申公豹がどっちが勝つか?という問いに「確実に聞仲です」とか言うもんだから、どんな裏技があるのかとドキドキしていたのに、それが一切ない。しかも、確かに敵は次々に打ち倒して行くんだけど、けっこうダメージももらってしまう。普賢真人の自爆攻撃で負傷してしまうし、元始天尊の盤古旛の重力千倍攻撃を喰らって腕が折れてしまったりする。でも、喰らいつつも、確実に敵を撃破して行くんですね。聞仲。血だらけになりながら……なんか、コイツ、ヒーローっぽくありません?w
いや、こいつ所謂「根性キャラ」なんです。普賢真人はこのムチを斥力場を発生させて敗ろうとするんだけど、これを突破されてしまう。この時なんで突破されたか説明されないんだけど……もう、つまり“根性”で突破しているんですよね。読めば分るけどw元始天尊の重力千倍攻撃も腕を折られながら破っちゃうんだけど、なんで破れたのか説明されない。……でも読めば分るけど“根性”で破ってるんですねw……ボス・キャラが根性キャラww他に何も取り柄はないけれども、自分の意志の強さにだけは絶対の自信がある……聞仲は確かにそういうキャラだ。
そして、この聞仲、どうやって負けるかというと、結果的に“消耗戦”で負けてしまう。ここも好き。普通、ボス・キャラってのは完全無欠な強さで、主人公側はまともにやれば勝てない、つまり持久戦や消耗戦に持つ込まれたら負けが目に見えているので、奇襲奇策による瞬発力で勝ち抜ける…というのは普通の主人公の勝利の方程式なはずなんですが…聞仲はこれが全く逆。めちゃ強だった聞仲は、普賢真人+太公望→崑崙十二仙→元始天尊→黄飛虎→そして再び太公望、の順に戦って、最後の敵の太公望に辿り着くまで、満身創痍になりながらことごとく敵を撃破して行くのです…………これってボスキャラの方が「五重の塔作戦」くらってるやん!!「逆・五重の塔」やん!!
そして太公望と戦う時には聞仲は心身共に消耗しきっており、もう負けるべくして負ける状態になっている。自慢のムチもまともに太公望に当らなくなっている。…その状態で……太公望って非常に冷静なキャラなんですが、何故かこの時だけは自らの宝具・打神鞭を捨てて素手の殴り合いを選びますwこれもう、ほんと、聞仲が「根性キャラ」で太公望がそれに釣られた事の証左だと思って入るんだけどwそして最後は自ら崖に身を投げて封神されてしまうのです。
…この「ボスキャラなのに奥の手がない」、「ボスキャラなのに逆に五重の塔される」、そして実は「根性キャラ」という三拍子揃った聞仲は僕の中では、かなり忘れられない「悪役」として心に残っているのです。こういう一心不乱に強い人が、どうしようもなく負けて行く物語は美しいとさえ思っています。
2008/06/26
第84回 風見博士(宇宙大帝ゴッドシグマ)
「宇宙大帝ゴッドシグマ」は当初僕にとっては、そこらにある普通のロボットアニメだった。ああ…成る程。陸・海・空のロボットがあって三体合体して“ゴッドシグマ”ね…まあ、普通?という冷めた感想。そのせいもあってか、物語に最後までつき合わず、いつの間にか放送は終了。「ゴッドシグマ?…ん〜何話か観たかな?」くらいの反応だった。その認識が一変したのは、アニメックというかつて存在した某マニアック・アニメ誌のロボット特集の記事を見た時。この作品に登場する、スーパーロボット・ゴッドシグマの開発者にして、ゴッドシグマを動かす超動力・トリニティ・エネルギーの発明者、風見博士……まあ、スーパーロボット・アニメには、ほぼ必ず登場する、スーパーロボットが“スーパー”である事の理由を説明するために存在する、ロボットアニメにおいては特別な意味を持つ、あの“博士”なんですが、この人が「史上初!本当に裏切った博士!!」として紹介されていたのですね。先ほど述べたようにスーパーロボットが問答無用にほとんど非科学的に強いのは“博士”が凄いからなんですね。マジンガーZが無敵なのは、超合金Zと光子力を発明した兜十蔵博士が凄いからなんです。つまり、この“博士”が人類を裏切るような事があったら、もう“終わり”なんです。だから仮にこの“博士”が裏切ったように見えるエピソードがあったとしても、25分後くらいには→「はっはっは…敵を騙すにはまず、味方から…じゃよ?」→「もう〜、はかせったら人が悪いなあ〜w」→なんていう脳天気な会話で話が終わるのが常でした…。しかし、この博士は、本当に裏切ってそのままだったと言うのです。…ロボット・アニメを見慣れた僕にとっては、これはちょっとした衝撃で。次に「ゴッドシグマ」に触れる機会があったら、この顛末を逃すまいと誓ったワケです。……しかし、実際に視聴してみると、この風見博士…裏切ったなんて淡泊な言葉では言い表せないぐらいの小悪党っぷりだったのですw
もうねw最初は腰の低い老人だったんだけど…いきなり豹変するのwおかしくなるのは敵司令官テラルを捕虜として捕らえてから!彼から敵の情報とタイムワープの秘密を聞きだそうと拷問するのですが!(このテラルって敵ながら“いい者”で最終的には地球とエルダーの共存を求めて味方になってくれるのですが)拷問ってね!悪役しかやらない電撃バリバリバリバリ!っていうあの拷問ですよ?wしかも「ワシは本気だ!みろ!」とか言って見せるのが、これまで捕虜にしたエルダー星兵士の死体なの!なんか浴槽に浸かって沢山並んでるの!みんな博士が拷問して殺したの!!しかも、その光景を基地に住んでるチビッコ(女の子)がモノガゲから見てるの!!あまりの事に涙流したまま硬直しちゃってるの!!…いやwwwこっちも観ていて、ひいいいいい!!!な、何が起っているか分かんない!って感じでしたよ!!
しかし、博士のこの本性(?)がバレてから基地内での博士の立場は微妙になり(と、当然な気がする…orz)博士自身もやさぐれて、エルダー軍が前線基地を構える衛星イオへ向かう最終決戦だというのに、まともに指揮をとらなくなります。→…しょ、職場放棄かよ!はかせ!!こ、これはない!今までないよ!?orz
そしてエルダー軍の決戦兵器によってゴッドシグマが合体不能になった事をみてとると、さっさとエルダー軍に投降してしまい「トリニティ・エネルギーの秘密を渡すから、ワシを300年後のエルダー星へ連れて行ってくれえ!」と言い放ちます。これが先に述べた史上初と言われる裏切りの瞬間ですね。
自分一人で投降するだけならまだしも、母艦のトリニティ動力を完全にカットしてしまって敵の取引き材料にしようとしていたのですから、言い訳しようもなく……結局、母艦に乗り込んできたエルダー兵士の白兵戦の銃弾に倒れて死んでしまうんですけどね。みんな、あまりの博士の豹変ぶりについていけずに呆然と博士の棺を見送るんですね。まあある種、超展開と言ってもいい展開だったかもしれません。助手の理恵などは「孤児だった私を拾ってくれたあなたが何故こんな事に…」って泣くんです。ほんと、何故こんな展開になってしまったのでしょう?(滝汗)
まあ、テクニカルな話をすると分かるんですけどね。「ゴッドシグマ」は善悪の逆転が起っている作品で、侵略されている地球が実は未来の世界では侵略者になっているという事が明らかにされる。そして敵将のテラルは地球人の味方になってくれる。…この“悪者”だと思っていたキャラが“いい者”になる展開の対比として“いい者”だと思っていた人を“悪者”にしたって事なんでしょうね。
かなり重厚なSFドラマで、その特徴は後半に集中していると言っていいのですが、ネタばれ含めてプロットを述べると、ゴッドシグマの敵であるエルダー星人は実は300年後の未来から、タイムワープを行って地球に侵攻し、風見博士が発明したトリニティ・エネルギーを求めます。実は300年後の世界では地球はトリニティ・エネルギーを標準装備した強力な侵略星間国家となっていて、エルダー星に侵攻しているんです。エルダー星の科学ではトリニティ・エネルギーを利用した兵器にまったく歯が立たず為す術なく蹂躙されていた。この戦局を一変させるためにエルダー星は300年前の地球に攻め込んでいるというなかなかややこしい設定なのですが…。
ねえ…やっぱり、すごいですよねえ…風見博士wトリニティ・エネルギーは300年後の世界まで代替わりしない強力な機関として君臨し続け、かつ、他の星間国家の武力を圧倒し続けているんですよ?この世界においてゴッドシグマが無敵な事も納得という感じです。この風見博士が他のロボットアニメの“博士”に勝とも劣らない天才である事は間違いありません。しかし、その未来設定が明らかになるにつれ、風見博士はおかしくなっていったのかも(いや、突然変わるんですけど)。好々爺だったんですけどねえ……「え?ちょwwww…ワシって実は天才?」とかようやく思い始めたんですかねえ…。
僕はロボットアニメの“博士”が裏切る事が有り得ないとは思っていません。しかし、そういう事があるとしたら作品の「場」を創造する位置のキャラなのですから、何らかの信念をもって主人公の敵に回るのだろうと、そうは思うんです。(博士じゃないけど「Gガンダム」のマスター・アジアみたいな感じでしょうか)しかし、この風見博士は300年後までその栄光が保証された人でありながら、最後まで卑怯卑屈な悪役として死んで行きました。……こ〜ゆ〜キャラはちょっと空前絶後となるかもしれません。
※「ゴッドシグマ」の悪役はもう一人、後半に副司令として着任するガガーンというキャラがいて、この人も好きなんで、また機会があれば取り上げたいと思います。