少年ジャンプ連載中の大人気マンガ「ワンピース」は面白い。登場する敵味方の全てが魅力的だ。特に『悪役』はいい。普段から悪役好きを自認している僕は「道化のバギー」も「百計のクロ」も大好きである。しかし、その中で一際僕の心を捕らえて離さない『悪役』がいる。それが“最弱の海”イーストブルーの覇者「首領(ドン)クリーク」である。首領クリークが登場した「海上レストラン編」ともいうべきシリーズは、敵が敵を呼んで入り乱れ事態が二転三転するやたら忙しい話だったのだが、その間僕は裏切ったナミも絶体絶命のゾロもそっちのけで、ほとんどクリークの動向ばかりを気にしていた!
しかし「出たと思ったら即座に『赤足のゼフ』『鷹の目のミホーク』と連続して株を奪われ、右腕のギンには逆らわれて、負けていった奴に何故そこまで肩入れする?」と思われる方も多いのではなかろうか?なるほど。実は自分ではクリーク・ファンという脳内麻薬が出まくっててまったく気がついていなかったのだが、よくよく見れば「卑怯なうえにしつこいデクノボウ」という世間的な評価の方が的を得ているのかもしれない(笑)しかし!それでもやっぱり僕は首領クリークが大好きである!彼は間違いなく僕が悪役好きをやめられない理由の一つである。だから、やっぱりこの場を使ってその男の魅力を力説してみたい。
首領クリークは、はじめ“偉大なる航路”からの落ち武者として登場する。海賊艦隊を率いて意気揚々と“偉大なる航路”に入ったものの正体不明の攻撃を受けて艦隊は壊滅。自身もほうほうの体で逃げ延びたが水も食料も尽きて全滅寸前の有り様で海上レストランに現れる。そして「軍隊に引き渡せ」と叫ぶ人々の前で、力なくうな垂れて食事を乞う。
クリーク:「何もしねえェ、食わせてもらったらおとなしく帰ると約束する…!だから頼む…助けてくれ…!」「お願いしますから…!残飯でも何でもいいですから…!」
しかし、サンジに食事を与えられ、食い終わった瞬間にクリークは豹変する!命の恩人であるサンジにいきなりラリアット!パティが撃ち込んだ大砲の弾を鋼鉄の鎧で跳ね返し、襲いかかるコックたちを身体に仕込んだ銃の乱射で押し返す!
クリーク:「虫けらどもが…このおれに逆らうな…!おれは最強なんだ!誰よりも強い鋼の腕!誰よりも硬いウーツ鋼の体!全てを破壊するダイヤの拳!全身に仕込んだあらゆる武器!50隻の大艦隊に五千の兵力!今まで全ての戦いに勝ってきた!おれこそが首領と呼ばれるにふさわしい男!おれが食料を用意しろと言ったら、黙ってその通りにすればいいんだ!誰もおれに逆らうな!」
う――・・・ん、カッコいい!(笑)悪役好きの僕にはこの豹変っぷりとその強さだけで琴線かきならしまくりである(笑)「だまし討ちのクリーク」と蔑まれても勝ち続けるために手段を選ばずここまでのぼりつめた海賊。元々ぼくは目的のために手段を選ばない奴は大好きなのだ。しかし、首領クリークという男を本当に“見直した”のは、この後の展開からといっていい。
特に一番好きなシーンは、ゼフから受け取った百人分の食料を与え「助かった!生き延びた!」と喜ぶ部下たちに、ボツリとかけた言葉、
クリーク:「そうだ、これでまた再び、“偉大なる航路”を目指せるというわけだ」
その時「あ、そうか」と解った。こいつはワンピース(一つなぎの財宝)を手に入れて海賊王となるのが目的なんだ、ただ漫然と破壊と殺戮を繰り返して巨大になり、成り行きで“偉大なる航路”に入ったんじゃない。始めから“それ”が目的で海賊をやってきたんだ、と。そういえば、レストランでも、もう一度“偉大なる航路”に挑戦するようなことを言ってたし、「海賊王になる」と張り合うルフィと対立してたな。その時は軽く読み流してしまったが、今あらためて硬直する海賊たちを見るとクリークが不屈の闘志の持ち主であることが肌で感じられる。そして今までの行動から“海賊王”になるためだったら全てをかなぐり捨てる『覚悟』があると考えられた。あの土下座して食を乞う姿から。僕はこの時にはじめてウリーク・ファンになったと言っていい。
だから「再び“偉大なる航路”に戻る」と言われ脅える部下たちに対し、
クリーク:「は?何だその顔は…」
と言うセリフ。そのセリフの「は?」のあたりとか妙に好きなんだな(笑)部下が“偉大なる航路”に戻るのを嫌がるとは夢にも思っていなかった、その「は?」から伺えるクリークの無神経さが好きだ。クリークは反論しようとした部下を即座に撃ち殺す。放っておけば「首領、このまま敵なしのイースト・ブルーで楽しくやってりゃいいじゃないですか?」とでも言い出しただろうか?勿論、クリークはそんな意見は聞きたくもないのだ。
しかし、そのクリークの良さに蔭りを与えるエピソードが二つある。「鷹の目のミホークの登場」と「逆らったギンに毒ガスを浴びせる」がそれである。ミホークの登場でクリークのことなど慮外に押し出してしまった読者は多数いただろうし、非情にギンを切り捨てて、なおかつルフィを助けて毒に冒されるギンを嘲笑うクリークに怒りを感じた読者も多かったろう。でも、ぼく自身はそれを蔭りとも何とも思っていない。むしろ魅力が増したとさえ思っている。(ああ、かなり病気)
ギンについては言い訳はしない。“あれがクリーク”だからである。僕はこれからもクリークに対し「いい奴だ、いい奴だ」と言った発言をするだろうが、よもやクリークが“善人”だとは毛ほども思っていない。
そして問題のミホーク。僕も最強の男ミホークは好きだ。しかし彼の登場でクリークが「おれは最強だ!」と叫んでも、そうでないことは周知のものとなってしまう。でも!でもね、皮肉ではあるがそれは「“海賊王”になるためだったら全てをかなぐり捨てる」というクリーク本来の魅力をより一層浮き立たせる結果になってる。たとえばゾロとミホークが闘った時。ミホークのあまりの強さにゾロは「世界がこんなに遠いハズはねェ!この距離はねェだろう!この遠さはねェだろう!」と唸るが、ぼくは「むしろこのことはゾロよりもクリークの方がはるかに感じたことではなかろうか?」と思ってしまった。ゾロを貶めるつもりはないが、近海一帯に知れ渡った程度の「海賊狩り」の名と「海賊艦隊」では、積み上げたモノが比べ物にならない!そのゾロがあそこまでの絶望に打ちのめされたとしたら、クリークの絶望は一体どれ程のものであったか想像できますか!?
もう一度マンガを読み返して欲しい。クリークが一体何をしてきたかを。常に勝ち続けるために揃えたあらゆる手段、ウーツ鋼の鎧!毒ガスMH5!大戦槍!そして相手をだまし時には卑屈に這いつくばって手に入れた50隻の艦隊と5千人の戦闘員!全て“偉大なる航路”に入って“海賊王”になるための足がかりのはずだった!それが一瞬にして灰塵に帰し、全てを失ったときのクリークから出たセリフがこれなんです!
クリーク:「これでまた再び、“偉大なる航路”を目指せるというわけだ」
かぁぁぁっこいぃぃぃぃぃ!!!それでニヤリと笑ってるんですよ!ちなみにゾロは泣いてましたね。“ニヤリ”と“男泣き”どちらが好みかは、おまかせしますが決してクリークのカッコよさがゾロに劣るものとは思えない。
そしてミホークの去り際にクリークはきっちり自分の意地を通してくれた!(予想してなかっただけに)これが本当に嬉しかった!帰ろうとするミホークを引き止めるクリークに部下たちは畏怖した声でこう言う「ど…どど首領…!なな…何でわざわざあいつを引き止めるんだ」卑怯なだまし討ちをしてでも勝ちを拾おうとするクリークと、このクリークに矛盾を感じる人もいるかもしれないが、ぼくはどちらもシックリきている。クリークに勝算があったのか否かはぼくには分からない。しかし“海賊王”になるために戦っているクリークにとって“最強”の誇りを傷付けられたまま黙って還すことなどできはしなかったのだ。そう、やっぱりゾロと同じく「それで死んだとしても」である。
あとは本編で首領クリークの“強さ”“しぶとさ”そして『悪役』であるが故の“儚さ”を堪能してください(笑)クリークはルフィの本当にいいライバルだと思います。“海賊王”に対するこだわりは二人とも尋常じゃない。毒ガスMH5を撃つと見せかけて打ち返しにきたルフィに手裏剣弾をくらわせるシーンがありますよね?あれは「海賊王はおれだ」と言い張るルフィに「ギャフン!」と言わせたかった。そう「ギャフン!」でいいんです(笑)単なるだまし討ちなら、もっと致命傷を与える兵器だってあるのに、わざわざチンケな手裏剣弾を使ったのは、ルフィをただ殺してもクリークにとっては何の意味もないから。絶対に海賊王は自分と認めさせてから殺したかったんですね(笑)「その夢見がちな小僧に『強さ』とはどういうモンかを教えてやる…!」とか言って、何か完全に本来の目的である「新たな船を奪い取る」ことを忘れちゃってるんだもんな〜。ホント、愛すべき『悪役』です。
首領クリークは自分が“最強”じゃないことを実は知ってるのかもしれない。本当に“最強”だったらハリネズミのような武装もだまし討ちも必要としない。そして“頂点”へと昇っていける人間ってのは、たとえばルフィのように卑怯にも卑屈にもならず、誰はばむともなく、ただ真っ直ぐに進んで行く者たちなのかもしれない。しかし、だからこそ“そうでない”クリークを応援せずにはいられない!