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話を積む

# 話を積む 投稿者:LD [2002/02/27_02:03]
昔、少年サンデーで「ジャストミート」(作・原秀則)という野球マンガが連載されていて、主人公が二人いるマンガだったんだけど、その片割れ、見立ちたがり屋の野球少年・坂本天馬くんが、甲子園決勝でサヨナラ満塁ホームランを打つシーンが印象に残っています。
…残っていて当然なんだけどね(笑)「ジャストミート」という作品の最初の甲子園編(4〜13巻)はほぼ全て、そのシーンを組み上げるために使われていると言ってもいいのです。

甲子園で知り合った野球を全く知らない女の子・美和子ちゃんの「ホームランってなんですか?」という問いかけに「オレが見せてやる!逆転満塁サヨナラホームランを見せてやる!」と天馬くんは答えてしまった構造だ(笑)超一流の俊足を生かして甲子園に来るまでの地区大会では大活躍だったにもかかわらず、その時から天馬くんの活躍はピタリと止んでしまう。もう、全打席フルスイング!で空振り!(笑)バントによって出塁してきて、ほとんどバッティングのセンスに乏しい天馬くんは当然打てない。…で、一戦終わる度に、今日も見せれなかったねえ、次の試合こそ見せたいねえ、という会話を美和子ちゃんと交わしたりするのだ。
その間チームは、アクのつよ〜〜〜〜〜い、対戦相手と戦い続けてるんですけどね。天馬くんはとにかく打てないという状態が続きます。

ある程度のところまで来ると「ああ、これはもう絶対、決勝で逆転満塁サヨナラホームランを打つんだなあ」と分かってくる(笑)
でも、そこに至るまでももう一ひねりを加えてくる。先に1コ前の打者がサヨナラホームラン打ってしまったり。そこでその“回”が終わったりするので、かなりヤキモキしたりしました。今だと「まあ、この一打は反則打になるんだろーね」とか流しちゃうんだけど、当時はもう少し初心だったのですよ(笑)
そして最後の打席、豪速球投手の球が乱れた時、天馬くんはわざとバットを当ててファールにしたりする。それを何回も続ける。そのままボールを見送れば押し出しで同点なのに、チームのために当然そうすべきなのに、観客も応援団も天馬くんのしている事が分からない。
次第に皆、苛立ち初めて怒号が飛び交うよいになる。「バカヤロー!なにしてんだ!」「どーせ打てやしねぇくせに!」「さっさと三振しろぉ!」、一人の女の子を残して、甲子園中全てを敵に回してしまう。
でも、本人は気にしていない。約束を守る事にしか興味がない。白球にしか集中していない。グワッキ〜〜〜ン!!というシーンなんですけど。…わりと好きな話です。

掲題の“話を積む”という事で何か書こうとして思い出した話です。まあ、話の積み方といっても、どちらかというと“潜伏型”と言うか、そのシーンに重みを持たせる為に、ある程度無駄にページを費やす事を手法としているので(「ベルセルク」の黄金時代編とかもこのタイプ)例としては良くなかったかも(汗)…ま、いっか。
「ジャストミート」はそ〜んなにすごい名作ってワケじゃなくってね。ジャンルとしては「スラム・ダンク」の出現で、絶滅寸前に追いやられたスチャラカ・スポーツものです。そのシーンもありきたりの“いいシーン”です。でも、そのありきたりがいいのです。そのシーンその一点を盛り上げるためにページを費やしている。無駄に空振りを続けるのも、観客全てを敵に回すのも、全てそのため。

それが“話を積む”と言う事。
天馬の打席

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