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魔球勝負!


 僕は魔球が大好きである。凡そマンガの世界における必殺技が大好きなのだが、その中でも“魔球”は代表的な分かり易さを持っていると思う。ド派手で、破天荒で、宇宙の法則を捻じ曲げたような魔球もさることながら、さらに僕を魅了して止まないのは、その無茶なピッチャーから無茶な魔球を突きつけられた、打者たちのその“魔球返し”の解答である。無理無茶な魔球を打ち崩すためには、さらに無理無茶な打法を編み出さなくてはならない。そして一概には言えないけれども、魔球の方は単に無理無茶な根性論で編み出すことができても、それを返す魔球返しは単に根性で見切って打ち返したというワケにはいかないのだ!マンガ的に!なんらかの理論的解答が必要なのである!…何と言うかそこに知恵と勇気の素晴らしさを見てしまうのだなあ(感)根性だけじゃ打てない。理屈だけでも打てない。「理論上は可能かもしれないけど人体には無理でしょう」という情況に果敢に挑む彼ら(今回の話は彼女らですが)の姿に感動し、それを表現するマンガの素晴らしさを感じてしまう。
 残念なことに、最近その魔球を見られる機会がめっきり減ってしまったような気がする。どうもリアル・スポーツ志向というか、そのスポーツにおけるルールと戦略を練った描き方がもてはやされ、いわゆる魔球的なモノはそのスポーツに対する冒涜、あるいは“逃げ”と受け取るような、昔からあった風潮ですが最近めっきり強くなったのか…、とにかく僕の胸のすくような魔球とその勝負はなかなか拝めないようになってしまった気がする。あったかもしれないんだけどね(汗)最近の記憶として残っているのは「砂漠の野球部」のサイレント・カーブだったか…。眉月の満身創痍の“大回転魔球返し”に涙し、野球ルールを無視して“殺人L字ボール”を返した川上監督の心意気に心打たれた僕としては、最近のマンガ流行自体が魔球を拒むものだとしたらちょっと寂しかったりする。

 そんな中で、最近“魔球勝負”としていたく感動した勝負がある。今回とりあげる女子ソフトボールマンガの「ウインドミル」がそれなのだが、実はこの「ウインドミル」を“魔球マンガ”と思われてしまうと、っちょっと違うかな?という気がする(汗)どちらかと言うと先に上げた、女子高生球児たちの青春グラフティという趣が強い。にもかかわらずこの物語のクライマックスは“魔球勝負”で締め括られていて(笑)連載中、普通に楽しんでいた僕のボルテージはここに来て俄然盛り上がってしまったのだった(笑)
 ピッチャーは本編の主人公・広沢滝。投げられる魔球は“滝ボール”。僕は魔球と呼んでいるが、実はそれほど魔球というレベルに達してはいない。すごいスピードで投げ込まれるナックルといったところだろうか?速くてブレるのでなかなか打てないが、当たる時は当たるといった程度のものが、“滝ボール本気(マジ)”になってようやく誰にも打てない、魔球レベルに達した状態のものだ。
 バッターはオリンピック・アメリカ代表のジーン・マクレガー。バットを振った瞬間はぼ9割がホームランという怪物で、滝ボールは難なく打ち崩したが、“滝ボール本気(マジ)”に対してはノーヒットとなってしまう。そこで生み出された“滝ボール本気(マジ)”を破る解答が怪打法“メイジ・スマッシャー”だった。“滝ボール”が魔球となったのはむしろ相手役である“メイジ・スマッシャー”が生み出された時といっていいかもしれない。
 “メイジ・スマッシャー”は、バッターボックス前面いっぱいに立ちさらに前に倒れこみ、“滝ボール”の変化が最高潮に達するその前にボールを叩くというもの。前方に転んだ状態になるので、もうホームランにするしかない!という打法である。あまり打つ機会はなかったが、これはほぼ間違いなく“滝ボール本気(マジ)”をホームランにするところまで行く。さて!ここからが本番で“滝ボール本気(マジ)”は間違いなく打たれると感じた滝が、次に編み出した魔球は“滝ボール本気本気(マジマジ)”。これは変化前のポイントをマクレガーから離すため、一度踏み込んだ足を後ろに踏み切って後方に飛んで投げるというもの。ここまで来るともうかなり魔球っぽい(笑)そんな無理な姿勢でまともな球が投げれるのかというと、投げれちゃうらしい。しかも魔球で(笑)(しかし、バク転するように投げるこの球は下手投げのソフトボールとマッチしていて、なかなか美しいフォームでハッタリも効いていると僕は思ってもいます(笑))そんなワケでこの“魔球勝負”。1ミリでも前に倒れこみたいマクレガーと1ミリでも後ろにのけぞりたい滝が、奇声を発しながら前と後ろにズッコケる異様な勝負へと発展して行くのです。
 そして物語の最終回、試合も決勝の最終回、最後の一投において、不様に転んでユニフォームを汚していたこの二人は遂に互いに技を完成させてしまう!前方にコケていたマクレガーは、スパイクを地面に突き立てることによって身体を固定し完全なるスイングを生み出す。そして後方にズッコケていた広沢滝は、振り上げた脚がキレイに弧を描いてスタリッと着地する。勝負の行方は敢えて書きませんが、これがちょっとよかった。最終回に技が完成するってすごく感動的じゃありませんか。そんなワケで“魔球勝負”がなかったら「手堅い作りだね」くらいしか言わなかったであろう、この「ウインドミル」。ちょっとお気に入りの作品なのです。

2001/08/15
「ウインドミル」全11巻 作・橋口隆志 少年サンデーコミックス

ああ、それにつけても“魔球”が見たい…


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