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#246 作画チェック 背景チェック EDチェック 夏目友人帳 ED
投稿者:ルイ [2008/07/18 17:19]

公式サイト:http://www.natsume-anime.jp/
絵コンテ・演出:大森貴弘
作画:岸田隆宏
背景:石垣プロダクション
色指定・検査:宮脇裕美


 理想のOP・EDに型はない。型はないけれど、作品そのものを五割増にするようなEDなら、文句のつけようもないですよね。と、いうことで。息をするのも忘れて見入ってしまったエンディングです。ただひたすらに素晴らしいので、観て!もう何度となく観て!とだけ言って終わりにしてもいいんですが(笑)一応いくつか。

 このEDは、完全FIX=固定位置からの撮影に終始しています。カメラを動かす事で、映像が「演出意図」に支配されることを恐れたのでしょう。撮り方に細工を入れない事で「ただ情景をそのまま撮りました」という空気を出そうとしたんですね。実際は今「出そうとした」と言ったように、カメラを動かさない事自体、動かす事と等しく「映像としての意図」が出るのが映像表現。ただ、EDテーマ「夏夕空」という曲との相性を考えても、この固定撮影演出は奏功しているように思います。コンテ演出は大森貴弘さん…監督自ら。まあ、これはどういう意図があって、どんな曲をEDテーマにしてもらうか。そのあたりから関わっている人だからこそのコンテ演出と言える。コロンブスの卵の関係のようなものでしょう。EDに相応しい曲、曲に相応しいED。そしてこの卵とニワトリが現実のそれと違うのは、彼らには「夏目友人帳」という「親」がいるという事。夏目友人帳という作品表現に相応しいものとして選ばれ、作られたのがEDであり、EDアニメーションと言えるのです。

 「作画」表記からすると、原画動画は全て岸田隆宏さんの仕事です。岸田さんのED作画歴は「ヤマトタケル」あたりから始まっていて、既に枚数少なめの表現なのですが、まだ線はアニメ本編とそこまで大差ないもの。「魔法少女プリティサミー」EDあたりから(落書き調の砂沙美がただ屋根の上でギター弾いてる、FIXモノ)岸田EDとも言える作風が確立されてきたような印象があります。多分これは、枡成孝二(当時は「ますなりこうじ」名義)さんのイメージでもあるんですよね。プリティサミーや「神秘の世界エルハザード」(これもラフな画にFIX)はこの2人が手掛けており、ともに育ててきたイメージと言えそう。ここから始まった岸田ED史は、枡成さんと離れてからも基本このイメージに則った活用をされています。ここ数年だけを切り取ってみても、「シスタープリンセス」ED(柔らかい線で描かれた麦わら帽子の少女が、ただ飛行機雲を追いかけるもの。演出大畑清隆)、「ヒートガイJ」ED(フィルムネガを固定して写すもの。演出赤根和樹)、「学園アリス」ED(デフォルメされたラクガキ感溢れる蜜柑と蛍が、相合傘をさしながら歩いていくだけのもの)等があり、最近では「しゅごキャラ!」EDを三連続で手掛けています(手描き感溢れるラフな線で描かれた、しゅごキャラたちのもの)。この中で直接的に結びつくのは「学園アリス」。学園アリスEDの演出も大森貴弘監督が手掛けていたわけで、このEDは「タカヒロ・コンビ」の2度目のEDという事になりますね。


 「学園アリス」のEDも、基本は「ただ2人で歩くED」でありながら、途中でナツメ(どんなシンクロニティ!?)とルカの男版相合傘コンビをすれ違わせたりして、時間経過を描写しつつ、最後には雨が上がり虹が出る。表現として、極めて同質のEDである事が感じ取れると思います。「夏目友人帳」のEDでは、そのあたりを↑の「にゃんこ先生、1人(1匹)で駆け回る」動きで描いていますね。上の画は蝶々をキャッチしようとしてジャンプし、失敗して落ちていくニャンコ先生。特別なSEや声もつけず、夏目が寝たままである事で、なんとも言えない静かに流れる時間を「動き」によって表現しています。背景の、ゆるやかに流れる雲の動画、髪や草のなびきも見逃せない所。

 ここで頭の画像にもう一度ご登場願って…遊びつかれたニャンコ先生も土手を登り、夏目の傍らで眠りにつく。ここで丁度歌がサビの「夏夕〜空〜♪」になる事にあわせて、2人(1人と1匹)の寝顔がアップで画面右から左に雲のように流れ、その顔が流れ去る頃には背景の青空が赤みがかかっていき、養ってくれているおばさんの塔子さん(かな?)が夏目を迎えにやってくる…。背景の上に薄くかぶせたアップ寝顔が、眠りに落ちてからの時間経過を表現しています。過不足まるでなし、美に溢れたEDだ…。

 塔子さんによって起こされた夏目、上半身を起こして眠気を払い、よっこらせと立ち上がり土手を上がっていく。土手に置きっぱなしの鞄に気付いて拾い上げ(ニャンコ先生が鞄の前にいた事からして、夏目に忘れぬよう促したかな?)3人(2人と1匹)で帰路につく…ああああ。美しいですねぇ〜orz図書館の蔵書を全部読みたいとか、そういう欲求もあるんですけど、これもまた夢の世界ですよねえ。おばさん(お母さん)に起こされる所まで、全てが夢のようだ。うらやまし。

 と。いう所で終わらせていたのが今までの僕なのですが!もう一歩。特に1人作画という表記はインパクトが強くて、どうしても岸田ED岸田EDといいたくなる(実際上でもそう言っている)し、そこで纏めてしまいたくなるワケですけど、「夏目友人帳」のEDに関しては、同様に表記された「背景」「色指定・検査」も見逃せないと思います。岸田さんの柔らかな線に見事に合致した、主張しすぎぬ草、そして色。茜がかる様を描いてみせた色彩の美しさも見逃せない。この作品、アニメ制作はブレインズ・ベースが手掛けています。ブレインズ・ベースと言えば?名作「かみちゅ!」で知られる会社で、つい最近までは「紅」を手掛けていた。でも、「かみちゅ!」と「紅」を直接の線で結んだ人は、そういないはず。せいぜい「丁寧な芝居作画」とかいった傾向で括るのが限度。それはやっぱり、「紅」はゴンゾ作品「レッドガーデン」からスタッフを引っ張ってきた作品であり、キャラクターデザインに限らず、色彩設計等もそちらに基づいているからなんですよね。

 それと比べて「夏目友人帳」は制作がブレインズ・ベースだと知る前から(アニメ雑誌で事前情報とか観ないんで)映像から「かみちゅ!」のイメージを感じて仕方なかった。それは勿論、もののけを生活の中で描いた作品、という作品イメージそのものからの連想もあるのでしょう。でも、それ以上に背景・色なんですよね。という事で調べてみた所、アニメーションプロデューサーの佐藤由美さんから始まって、美術の渋谷幸弘さん(石垣プロダクション)が同じ役職。色彩設計の役職(EDに表記されるものではなく、OPに表記されるもの。つまり色彩監督みたいなものかな?)は「かみちゅ!」では歌川律子さんだったものが宮脇裕美さんになっている…ものの、宮脇さんは「かみちゅ!」本編での色彩設計を、約半分の話数で手掛けています。つまり、この作品から「かみちゅ!」を感じ取るのは極めて自然な事なんですね。そうやって事実を突き詰めていくと、前述したように「岸田ED」の型を共に作り上げたとも言える枡成孝二が、その「かみちゅ!」の監督をしているわけで…巡り巡って、この「夏目友人帳」の美しいEDに辿りついているんだなあ、という事が感じ取れると思います。作品自体「縁」を描く作品のようですし?まさにお後が宜しいですね!!!(強引)…スイマセンorz


 しかし、アニメーションの奥深さは感じられる。たった15年程度遡っただけで、こういう線が見えてくるんですからね。結局人間の興味センサーなんてものは有限で、本当に興味があるものだけは、こうやって様々な評価軸からチェックする事が出来ても、そうでないものはどんなに拾い逃すまいとしても、上辺を掬っても残りは零れ落ちていってしまう。その事自体には良いも悪いもないんです。個々の趣味内プライオリティを自分と同じであれ、なんて考えるのは傲慢以外の何ものでもないし、誰かが自分と同じ「気付き」を得ていないからといってその事を責める侮るなんてのはお門違い、或いは自分にとっての「拾い逃している分野」に思いを馳せていないからこそ到達できる、身勝手な感覚です。…でもですね。折角アニメが好きで、アニメを大事にしているのなら。こういう見方もありますよって事を言いたいし、同時に他の人からそういうものを感じ取っていけたらいいと思います。…ま!楽しきゃそれでいいって言われたら!全然言い返せないんですけどね!面倒な事に、それだけじゃ満足できない性質だから!w…最後に自分語りをしてしまいましたけど、とにかく「夏目友人帳」は素晴らしい作品です。今回はEDチェックという性質上織り交ぜようがなかったけれど、ニャンコ先生役の井上和彦さんの演技も、ベテラン男性声優ならではの見事な二面性があって素晴らしいし…2008年夏期の、隠れエースとも言える作品になるんじゃないかな。夏夕〜空〜♪(←EDだけ何十回も観ている)
  • 夏目友人帳第6話 水底の燕 投稿者:ルイ <2008/08/18 06:36>