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#312 {作画チェック} 続 夏目友人帳 第10話「仮家」
投稿者:ルイ [2009/03/14 04:59]
<<<親記事]
脚本:関島眞頼
絵コンテ・演出:今掛勇
作画監督:高田晃
総作画監督:山田起生
原画

ホンギャアアアアア━━━━━━ヽ(゚Д゚)ノ━━━━━━ !!!!


 と、言う事で。原画をホンのちょっとでも意識した事があるならこのクレジットだけでテンションが上がる、岸田隆宏・竹内哲也・富岡寛という超豪華3人原画。最近矢向さんと富岡さん、一緒に仕事しないなあ…「キミキス」の二見さんが超美麗な画(  http://www.tsphinx.net/manken/dens/dens0084.html#491 )は富岡さん修整なのかなあ…などと脱線しつつ。勿論名前だけに引っ張られるのも、権威主義(テロップ厨とも言う)に陥りそうで注意が必要なのですが、アニメーターの評価なんて露出が少ない分、ほぼ実績と直で繋がってます。名前に負けじと本編も強烈な作画回なのでした。特別なアクションがあるような回ではないものの、あらゆる部分が上手くて…週アニメというスケジュールの「常識」の中でつい忘れがちになってしまう、作画の所作への貢献というものを強烈に感じさせる1話になっています。因みに本編観賞中から、竹内さんと岸田さんの参加は予想できました。正直序盤は「竹内哲也作画監督回来たか!?と思ってワクテカしてたんですが…それはハズレ。終盤で、ああこりゃ「夏目」人脈的に岸田さんも来てるな、と。この辺の一流アニメーターは、やっぱり格が違う。
どこを抜き出すというか、何処もかしこも見所なんですが、とりあえず登場順にいくつかポイントを紹介。


 冒頭のニャンコ先生から既にスペシャル感。ラフな線で動かすというのは、余程動かしに自信がある人しかできない。今回のニャンコ先生、全体的に
普段の「陶器ありき」から離れて、モコモコでフワフワでちょい食べ過ぎの可愛いニャンコ先生です。ニャンコ先生可愛いよニャンコ先生〜。

 この回が改めて浮き彫りにしたのは、やはり「上手い人しか組めない演出」というものはある、という事。

夏目「妖怪め。用があるなら俺にだけ仕掛ければいいのに」

 ここ、なんて事はないシーンなんですが…2枚目がポイントです。2枚目で首を少し左に振って、4枚目でアゴを少し引く。この2枚が加わることで、ただ夏目を横から捉えたこのカットに、セリフにもあるような「吐き捨てる」というニュアンスが加わる。自分以外の藤原夫妻を巻き込む妖怪への苛立ちが、ちょっとした動きに現れている。本当にちょっとした動かしなんですけど、全編それを通すと、キャラクターの存在感に雲泥の差が出ます。今回はとにかくそういった、細かい動かしによる存在感の演出が素晴らしかった。脚本で指示できるような、大雑把な動作ではないんですよね。というか、ほとんどの作品の脚本も週アニメの常識を知ってしまっているから、そんな「表現できるかどうかすら定かではない」書き方はしない、という方が正解かもしれませんが…この回には、そんな「望んではいけないレベル」の細かい表現が溢れています。


 夜、妖と思しき影を見た夏目が飛び起きて追いかけるシーン。布団を左手ではねあげながら枕元に持ってきた右足をふんばって立ち上がり、左足に重心を移した後右足を上げて布団を踏まないように越えていく。1つ1つの動きが実に適切。二段目は手先の残し方が興味深いですね。

 上手!な階段降り。右手と左手を手すりにおいてから、という「家の中が暗いからこその安全確保」と、同時に藤原家の人に迷惑かけまい、という夏目の焦りも表現されています。踊り場までは一段ぬかし、そこから先は目の前に壁がないのでぶつかる心配なし、という事で、一階まで一足でジャンプ。細かくカメラを揺らしているのもお見事。

 滋さんの回想パート。特に序盤、レイコと幼い滋が出会う日中のシーンは、全般的に髪の毛の動きをはじめとした細かい部分が実に丹念に描き込まれています。上手さで言ったら前後のパートの方がハッとする動きは多いんですけど、ここはとにかく細やか。大昔の回想がまるで昨日あったかのような生々しさを持っている。当時の滋少年にとっての出来事の印象深さを示しているようであったり、或いは今の滋さんの話を聞きながら、夏目が想像の翼を広げているとでもいったような解釈が出来る部分です。表情付けも実に巧みで、レイコさんの挑発的な凄み方が素敵です。


 夏目の「吐き捨て」同様、作画が応えられるからこその高い演出レベル。滋少年とレイコの言葉のない交流、お互いの反応。滋少年は笑う前に一旦重心をほんの少し下げて、大きく笑う為の溜め(準備)を取っていて、そこから口を大きく開けながら体をはにかむように少し半身を逸らしながら糸目になる。一方のレイコは滋少年のそんな無邪気な様子を見て、2枚目で「諦め」というか…ふう、と一息ついて、そこから首を伸ばして見下ろすような形を取りながら微笑を浮かべ、次に右に少し首を傾げる。…こんなのTVアニメで要求できる動きじゃねえよ(笑)!全編、顔を動かすなら肩をはじめとした胴が動くのも当然、という「当たり前だけど描いてられない部分」を描き続けいて、それがしっかりと演出効果となって現れています。

 …このスカート、どんだけ(笑)?一枚目の線の多さの時点でちょっとビックリしますが、風がそよぐのに合わせて髪だけでなくスカートもしっかりとはためかせています。こう、画面の瑞々しい印象におおいに影響するであろう部分ですけど、髪の毛だけで表現したくなる所ですよね…。

 回想後半、滋少年がレイコがいるであろう部屋の襖を開けようとした丁度その時に、中から聞こえてきた奇声にビックリするカット。ビクウ!という驚きを表現する三枚目が秀逸。


 回想後、夏目がニャンコ先生の頭を撫でるカット。レイコがかつてこの家にいた、という事をつぶやくニャンコ先生に、同じくレイコ先生との繋がりを感じていた夏目が共感したというか、家族の絆を感じて構いたくなったシーンですね。演出としてもラストの滋→夏目の頭撫でに繋がっていく重要な部分ですが、まあ何より撫で方がメチャクチャいい!注目してほしいのは、まず2段目の1枚目。夏目の親指の右、ニャンコ先生の頭に皺が出来てるんですね。夏目がニャンコ先生の頭を半ば掴むようにグッと押さえて、そこを中心に押し付けながら左右移動しているからそういう皺が出る。あとは左右の耳のところに行った時の夏目の手。耳の穴を押さえるかのような動きと、その手が離れたときのピョンとはね起きる耳!その直前を捉えた4段目1枚目の破壊力と言ったら……嗚呼……撫でさせて!orz

 このあたりからは岸田さんがメインでしょうかね。夏目の妖力を吸い取り、咀嚼しながら膨張していく描写は説得力充分。少女漫画のかっこいい少年主人公を、ヨダレつきのバケモノにここまでリアルにもっしゃもっしゃさせるというのも凄いなあ。女性ファン卒倒(?)だ。


 夏目が結界を張ってからも、岸田隆宏さんコーナーでしょう。1段目のラストで左肩にしがみついていたニャンコ先生が吹っ飛ばされているのだけれど、藤原家を守ろう!という強い意志のある夏目は、その風圧にも耐えて前を見据えようとする。回想シーンのような「そよぎ」とは違う、暴風に晒される夏目の髪の動きが素晴らしい。妖消滅エフェクトは、まさに得意ゾーンだなあ…。

 格闘のような派手なシーンがあった回ではないのですが、紛れも無く年数本クラスの作画回でした。全ての所作を1つ1つ職人レベルまで高めていくこの回は、「夏目友人帳」という作品全体の動きをこの回の動きの印象でもって脳内補正してしまうというか…それくらいの力を持っています。毎週このレベルを求めるというのは間違いなく「無理」です。アニメーター集団の誠実さ、丹念さのみに頼って所作に至るまで演出レベルを落とさない、というのは「true tears」等が試みて成功してますけど、この回はそれに才能・センスも加わってしまっている。OPやEDで関わってきた竹内さん、岸田さんといった大物が一度だけ訪れた、夢のような1話。それが『続夏目友人帳』第10話なのでした。まあ皆さん素直にこの映像基準で全話に脳内補正かけちゃうか、或いは…脳内から、この回消去した方がいいと思います。TVアニメがこんなに細かい所動かせるわけないじゃん(笑)。大きくぐりぐり動かすだけなら、枚数や人員導入で不可能ではないんですが、ちょっと動かし方の巧みさが並外れてます。夢だ夢夢、夢でも見たんですよ、うん。

しかし1人原画もいいけど、腕利き3人原画ってのも何かもう楽園のごたる(*´∀`*)