■[アニメ諸評][キミの名を呼べば] kichi >> ★★★:(上巻)冒頭で便器女達にとって「本名」が大切なものであることを語る原作にないモノローグがプラスされていて、これ自体はとても良い追加ではあるはずなのに、肝心の本編での「本名」の扱いがかなり軽い描写になっているため、かえって落差でガッカリ感が高まってしまっているのは皮肉な話……といった印象が強いアニメ版でした。やはり一番問題だと思うのは初めて満子の本名を呼ぶシーン。まず主人公側としてはその賭けがゲームになってないことを知っており、でも自分の欲求を優先して賭けに乗るというシーンで、決断はしているけど罪悪感はあるから小さな声で呟くように「……満子」と発するというのが原作の心情をきちんと追った表現だと思うわけですが、アニメでは答える前に「ん〜」とか悩む素振りを見せたりしていて、いくつか取り方はありますがどうしたって「軽い」んですよね。さらにはその際の満子の反応、名前を呼ばれて自然に「はい」と答えてしまったけど数秒後その意味に気付く、みたいな描写になってるのですが、そんなわけないと思うんです。最初に書いたように便器女達にとって本名はとても大切なものであり、しかも数年レベルで呼ばれていないものでもあるんです。そこを汲まずにアニメの定型パターンの一つに当て嵌めただけとも思えるような軽い描写になっているのが本当に残念。そして、原作における満子は達観したような「仮面」をかぶることで酷い現状をやり過ごしているといった描かれ方が強いのですが、アニメ版の満子は割りと天然気味な子で「仮面」なしでも現状を受け入れられそうにも見えるんですよね。いやこれは極論で、原作でもアニメでも両方の要素を持ってはいるんですが、制服を渡したシーンで原作にある「…やっと…」という小さな呟きをアニメではカットしてる辺りから考えても傾向としてアニメでは後者のキャラ性が強まっているのは間違いないと思うんです。これ、極論を続けるなら原作では本名が「仮面」を外すキーワードという描写だったのに対して、アニメでは主人公に本名を呼ばれるようになったことではじめて満子にとって本名に価値が出た、くらいに違った意味に捉えることも可能な差異だと思うんですよね。でまぁ、後者の方が萌えるみたいな理由で意志を持って後者を選択してる可能性もあるんですけど、私の感覚では前者の方がずっと深くて重くて切ないと思うんで、やっぱり残念なアニメ化という印象が拭えないのです。まぁ、アニメもかなり痛々しい描写にはなっているし、原理主義的に過ぎる見方なのかな?とも思いますが……。 <2009/04/13 02:00> [返] [削] |
漫研ノート
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