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ルシオラ事件・第二稿

登場以前・・・
 最初にルシオラが登場する前の設定を確認したい。「美神令子除霊事務所」は社長の美神令子とアルバイトの横島忠夫、そして幽霊のバイト「おキヌ」の三人でやってきた。実はこのマンガ、すでに幽霊のおキヌちゃんの人気が主人公の美神さんの人気を抜いていたし、(横島=おキヌ)ラインも囁かれたのだが、この時点ではそれほどの問題ではなかった。スタート時の美神さんと横島くんは特に好き合ってる必要は無く、極端な話「色気ばかりのクソ女(エロガキ)!」と憎み合ってさえいてもよく、そういった下心の人間関係を楽しむマンガでさえあったからだ。要は「美神さんと横島くんのコンビで幽霊・妖怪を楽しく退治する!」ことが守られていればよかったのだ。

 しかし連載が長期化することによって一つの問題が発生する。第一稿の冒頭文を参照してもらいたいが、ここにきて作者は最終回用にストックしていたエピソード“おキヌちゃんを人間に変える”というネタを持ってくる!「スリーピング・ビューティー」(単行本19〜20巻参照)がそれ。今まで(横島=おキヌ)ラインを遮る壁として用意されていた“幽霊”という設定を取り払ってしまったのだから大変だ。もともとおキヌちゃんは横島に好意をもっていたし、横島くんは横島くんで性格的には(作者の好みを反映して)間違い無くおキヌちゃんの方が美神さんより好みなのだ(笑)(美神=横島)よりも(横島=おキヌ)が強固であってはならない!そのことは以前から分かっていた問題なので、すでに伏線的に(美神=横島)間にも恋愛感情は導入してはいたが、このエピソードを打ち出した後で、さらにもう一押し関係を補強することにした。

 それが「デッドゾーン」(単行本22〜23巻参照)である。ここで作者は横島くんと美神さんは前世で再会を誓い合った仲という設定を放り込んで来たのだ!うーん、これには驚いた読者の方も多かったんじゃないだろうか?“前世からの運命的な再会”といえば大恋愛である。絶対そんなラヴラヴ関係じゃないところが横島&美神の良いところだったのに、これはかなりの方向転換になりかねない。まあ、それほど“生身のおキヌちゃん”は恐かったといえる。また方向転換する気はないので「前世はあまり関係ないですよ」とちょくちょく断ってはいたが、でもヤバくなったら絶対持ち出すつもりだったろう。(現にルシオラ編では持ち出してる)

 しかしそれでも、おキヌちゃんを生身にすることは、それなりに意味があった。これだけ続けた三人の関係が簡単なことで崩れるはずもなく、今までは読みこんだファンだけが内心で思い描いていた『三角関係』を、作品として前に打ち出す、それも「『三角関係』のような・・?そうでないような・・?」という微妙な関係は「GS美神」のテンションとよく合っていて上手く行けば「『GS』は後、10年は戦える・・・」(マ・クベ調)作品になっていたのだ。これがルシオラ登場以前の「GS美神」の状態である。この事を踏まえた上で、ではルシオラ登場以降の展開を追ってみたい。

検証その1仁義なき戦い!!
 とにもかくにも、アシュタロスとの最終決戦編の開幕である。はじめに言っておくと、この戦いを何故おこしたのか?(いえ、かなり突然始まったので・・)本当にこの戦いでアシュタロスとの決着をつけるつもりだったのか?は、ぼくにはもはやわからない。きっといろいろな形でストーリーが変遷しただろうから・・・。  ただ、はっきり言えるのは始めからルシオラを横島くんとくっつけるつもりで三姉妹を登場させたワケではない、という事。そうでなければ、あんないい加減なコスチュームのはずはない!(も、ものを投げないで下さい!冷静に、冷静にお願いします!)と、とにかくアシュタロスとの最終決戦でまずクリアしなければならなかったのは「美神チームから神族の加護をはずすこと」だったでしょう!アシュタロスという強大な敵は明らかに美神さんの手に余るものなんですが、最終決戦なんですから!直接対決しなくては意味がない!そこで神族の加護の代表である「小竜姫」には退場してもらう!それをアシュタロスが一人で暴れまわってるだけだと可哀想(笑)なので、じゃあ何か手下どもを用意するか?それは当然、女の子だね!そんな経緯で「ルシオラ」「ベスパ」「パピリオ」の昆虫三姉妹が登場したと思われます。
 この時点での彼女達の使命は小竜姫の退場もそうですが、真面目で暗くなりそうな(なにしろ前世の因縁がからみますから)最終決戦の場を明るく楽しく盛り上げること。妙神山攻撃に至るまでの彼女たちのワイワイ楽しそうな態度を見ているとそれはよく分かりますよね。

検証その2続・仁義なき戦い!!
 そして小竜姫、ワルキューレたちを退ける程の能力が条件ですから当然とんでもなく“強い”必要がありました。やはりネタにつまっていたと考えたくなりますが、ここで霊力数値「マイト」を使って彼女たちの強さを表現します。美神さんたちの霊力を100マイト前後、三姉妹の霊力を1000マイトかそれ以上と設定して、さて、ではどうやってそれを収束させるか?小竜姫らの残した形見を武器にパワーアップして倒すという方法もあったのだけれど、それは以前メドゥーサとの決着でやった手段で面白くないと判断したのでしょう。で、結局たどり着いたのは「物の怪に好かれやすい」という横島くんの設定を使うこと。マンガの世界で、はるか太古から連綿とつながる大古典パターン『くの一裏切り』というやつです(笑)ただし、この時点でのターゲットはルシオラではなく、パピリオだったと思われます。実際、横島くんと最初に仲良くなったのはパピリオですし、考えてみればパピリオが横島くんになつくってのは、割と自然な上にその後、美神令子除霊事務所で引き取ってもかまわないくらいヤバくないんですよね(笑)横島くんが純粋に「パピリオを救ってあげたい」と考えるのも、ほとんど下心のない決断になりますし、彼の成長の表現としてはなかなかいい感じと思うのですがどうでしょう?

検証その3その後の仁義なき戦い!!
 ここで三姉妹をどうやって裏切らせるか以前に「横島くんに三姉妹が憎めなくなってしまう」必要が生じてきます。しかし、ここまで散々な虐待を受けてきた横島くんですし、不思議と彼女らにはセクハラの対象にもならなかったようです。(ってあたりまえか)そんなわけで「三姉妹の寿命はあと一年」という設定を入れて、横島くんには“同情”してもらうことになったようです。この時点では作者にとって何の気なしに選択した(極限まで引っ張り事と次第では“使う”こともできる、また何事も無く使わずじまいで終わる事もできる)非常に融通のきく設定に思えるのですが・・・結局、この設定があとで大波瀾を引き起こすことになります!
 もう一つ、ここでルシオラと横島くんの最初の接触があります。これは話運びとして(裏切り本線の)パピリオのフォローと考えたほうがいいでしょう。でも「夕日の話」はいいシーンです。パピリオはペットたちに自分の思い出を残そうとしますが、ルシオラは少しでも多く美しいものを自分の心に残しておきたい、といったところでしょうか。このエピソードまではルシオラたちに人気があったとは、そんなに考えられないと思います。

検証その4仁義なき戦い・超常作戦!!
 この話の主目的はとりあえず時間稼ぎでしょうか。美神令子のアシュタロスとの決戦を視野に入れた上でのパワーアップ作戦。まあ本当にパワーアップさせようとしていたかどうかは分からないんですが、とにかくその間の時間を用意しようと、登場した「美神ママ」に原子力空母の全電力を使用して「時間攻撃」するというダイナミックな反撃してもらいます。
 はい、そしてここで横島がルシオラを助けてそのまま急接近することになりました。タイミング的にばっちりですし、何と言うかあのメンバーで「兵鬼・逆天号」の修理に行けるのってルシオラしかいませんね(笑)というか夕日のシーンで、もう大体ルシオラに裏切ってもらう線に変更したんじゃないかなーっと、ぼくは思ってますが。

検証その5ワン・フロム・ザ・ハート!!
 問題の話「ワン・フロム・ザ・ハート!!」です。すっかり横島くんに心を寄せてしまったルシオラ。そんなルシオラにコロッと参ってしまい「一緒に逃げよう!」と告白する横島。「夜忍んでくる」と言われてあせる横島に明かされる「10指令」の事実!そして「アシュタロスはオレが倒す!」という決意!たった3話分のスペースしかありませんが、名シーン、名セリフのオンパレードで、とんでもなく盛り上がってます!“ルシオラ編”としては最大のクライマックスと言ってもいいでしょう!最終決戦編の目的の一つであった“横島くん”の成長がこんな形で実現することになるとは。

 しかし、ここで作者はとんでもないキャラを出現させてしまいました。ルシオラの「一年の寿命」から来る理論、
「私たちの一生は短いわ。恋をしたら――ためらったりしない・・・!!」
は実に説得力があり心打たれるセリフで、これはもうおキヌちゃんや小鳩ちゃんが「横島さん、好きです」なんて言う程度のセリフは、問答無用に吹き飛ばしてしまう威力がある!「GS美神」で「命を懸けるほど誰かが好き」というキャラは今の今まで誰一人としていなかったんですから、(そんな深刻な人がいない所がこのマンガの良さみたいなものでしたから)こんな“命がけ娘”に、どうやって立ち向かえというのか(笑)『三角関係』なんて生ぬるい状況は許されない。なにしろむこうは命かかってるんですから!(笑)横島くんにそんなルシオラを振り払うことなんてできるはずがありません。そして(美神=横島)のラインが崩れてしまえば、それはもはや「GS美神」ではないのです!
 ハッピーエンドを目指すのが「GS美神」の本道ですから、仮に全て上手く行ってルシオラの寿命もなんとかなり横島と暮らし始めたとしましょう。すると仮にその後の話をするとして、横島くんとルシオラがイチャイチャしてる横で一人寂しく神通棍を振りまわす美神さん、という構図はあまりに悲しい!いまさら美神さんが横島くん以外の誰とくっつくと言うんでしょう!あれだけ伏線を張っておきながら!
 つまりルシオラは“消す”しかないわけです。(少なくとも連載を続けたいなら)「10の指令」も基本的にはそのために用意した設定でしょう。しかし!それは、すでに現れていたルシオラ・ファンの心に拍車をかけるに十分な『悲劇性』でした!本来この最終決戦編を盛り上げるだけ盛り上げて、適当な頃合で退場してもらうのがベストラインだったルシオラは(『くの一裏切り』ってのは大抵そーなんです)殺すに殺せないほどの人気を獲得していました。当然ですよ!あんな悲劇を背負っても、なお一途なヒロインの人気が出ないワケがない!
 作者の椎名さんも、途中からある程度こうなることは予想していたはずです。では何故こんな危険なキャラをそのままに筆を滑らせて行ったのか?それは、それが現時点で考えうる“最も面白い”ネームだったからでしょうね!いい人や!椎名高志!!バッチリめちゃくちゃ面白かったです!あなたの気持ちは確かに受け取ったぜ!さあ、後はここまで広げて脱線した風呂敷をどうやってまとめるかだ!!

お疲れさま!ここまでは「ルシオラ展開編」ここからは「ルシオラ回天編」だ!(↓)
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'98-8/12 LD津金

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