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ルシオラ事件・第三稿

私の記憶が確かならば・・・
 少し記憶が薄れてしまってるのですが、「ワン・フロム・ザ・ハート!!」を読んだ後、ぼくはこの先の見えない展開を色々と考察し「もしかしたら『GS美神』は終了するかもしれない」という結論に達しまして、気になって巻末の作者コメントに目をやりました。その時、椎名高志さんは確か「同じ頃に連載が始まった『今日から俺は!』が終了し『GS美神』がサンデーの最古参に。こうなったら最長寿連載狙うかな?」とコメントし次の週では「『ダメおやじ』の連載が20年?そりゃむりだ!」といった類の発言をしていたと思います。そのときは「おや?意外におちついている?」と思ったのですが、今にして考えれば「終わってたまるか!」という意思の現われだったのかも。それとサンデー編集部の方でも「投稿コミックショー」のスペースに「GS美神」特集を入れて、確か美神令子自身に「『GS美神』の主人公は誰が何と言ってもこの私、美神令子よ!」といった発言をさせていたと思います。こちらは「やはり編集部は今の展開のヤバさに気づいているか」と邪推して一人ほくそえんでいました(笑)(今手許に資料がないため確かめることができませんでしたが「ワン・フロム・ザ・ハート!!」のエピソードの前後の週のサンデーに載ってると思います。確認情報求む!)

検証その6ザ・ライト・スタッフ!!
 やる気満々で煩悩パワーを全開にしていますが、人間的に成長をとげた横島くんが、今度は戦闘能力的にも美神さんを超えてしまうというエピソードです。しかし“ルシオラ編”として観た場合、注目すべきなのは、美神さんの前世であるメフィストとルシオラを横島くんの夢の中で引き合せてるシーンでしょう!これは第二稿のはじめに述べた「前世の因縁・ブレーカー」の存在を読者にアピールしています。おそらく、おキヌちゃん対策に設定したこの“装置”がよもやこんな形で使用されるとは作者自身も予想してなかったでしょう。しかしながら普段のギャグストーリーとしては、やたら邪魔っけなこの設定は「二人はこの事実を記憶して無い」という形で保管されていたので、いきなり持ち出すにはステップを必要としましたし、現在進行形の(ルシオラ=横島)ラインを遮るにはイマイチ説得力が乏しいように感じました。

検証その7激突!!
 ラスボス・アシュタロス本人が直接乗り込んで来て、母親を人質に急速に事態が展開するこのエピソード。“ルシオラ編”的にも非常に重要な場面となっています!問題部分は(その1)での横島くんとアシュタロスの会話。
横島:「おい…!ルシオラたちに何をした…?」
アシュタロス:「処分したよ。必要なくなった道具を君はどうする?当然だろ?」
これを読んだ瞬間「やられた!」と思いました!“読者の怒り”と“横島くんの怒り”が完全に一致するこのシーンはルシオラを“退場”させるのに絶対のタイミングだったからです!この後、問答無用にルシオラの登場(幻影)をシャットアウトないし制限をすれば、今なら読者はルシオラのことを忘れられる!(一部例外の人はいるでしょうが)そして横島くんと美神が凸凹コンビのまま協力してアシュタロスと戦えば、しっかり「GS美神」が(美神=横島)ラインの物語だったと思い出してくれる!(個人的な事を言えば「愛した女の亡骸も見られない」という“渋い”別離は、かなりぼくの琴線を刺激してくれます)「やられた!『GS美神』の物語が崩壊しそうな勢いだったから、てっきり『暴走』してると思っていたのに、完全に“手のうち”の出来事だったのか!見事なストーリー・テリングだぜ、こんちくしょう!」とその時は地団駄を踏みました。しかしながら次の週(その2)では、いきなりホタルが登場してますね(笑)その後の展開でベスパもパピリオをまるで無事なことが分かり、アシュタロスの「処分したよ」という爆弾発言は宙ぶらりんの状態に(笑)
 結果としてこの回のエピソードは「ここがルシオラ退場の最高のタイミングということは分かってるんやー!でもワイには…ワイには(こんな形で)ルシオラは殺せなかったんやー!カンニンやー!」という作者の無言の訴えという意味合いがつよくなっています。あるいは「ここで退場させても読者に(美神=横島)ラインが正統とは認めてもらえない」と判断したのかも知れません。

検証その8そして船は行く!!
 勢揃いしたGSチームが、アシュタロスの指定した決戦の地南極へと向かうお話。特に話すべき点はないです。ないのですが・・・ぼくがいくつか考えた「ルシオラの処遇」の中に「横島くんのアイテム化させる」という予想がありまして。意識を持たず、竜の牙やニーベルンゲンの指輪のようなモノになれば打倒アシュタロスに一役かえるし、物語を破壊することもないかなー?っと・・・いや、昆虫状態が続いてるもんで「スカラベ、ブローチになる?」とか思っちゃいまして(汗)しかし、考えようによっては最も残酷な結末ともいえるので、これはなかったようです(笑)

検証その9GSの一番長い日!!
 椎名さんのことだから、いずれは絶対使うはずだったこの題名が「GS美神」最大のクライマックス(の開幕)であることを表してますね(笑)(そして実際にとんでもなく長い日だったことを後で思い知らされるのですが)横島くんがアシュタロスの能力をコピーするのが非常に楽しい話で、あとベスパのことなどにも触れたいとは思うのですが、ただでさえ長文なので、ここでは割愛します。
 さて“ルシオラ編”として観た場合このエピソードの主目的は「当のルシオラに(美神=横島)ラインが正統と思い知らせる」だったと思います。これは「前世・ブレーカー」を出して「GS美神」本来の展開をみせれば、ルシオラは自然とはじき出されるという計算だったのでしょう。いえ実際にルシオラ、はじき出されてます!ギャグマンガとして観た場合ルシオラは手持ちの武器がほとんどありませんから(笑)しかし!しかしです!何度でも言いますが「この娘、生命かけてるんですから!」“姑にイビられると分かってて旦那に付き添う嫁の覚悟”っていうんですか?(笑)それぐらいのことで引き下がる訳が無いのです!まあ、この後に続く「宇宙処理装置」の設定は面白く大分以前からあたためてたネタではないかと思いますし、脱線した物語を矯正する程度の構想だったのかもしれませんが、とにかく“ルシオラ編”としてはルシオラにも読者にも“身を退く”ことを納得させる伏線足り得たか?は非常に疑問のまま一時撤退的に話が収束して行きます。

検証その10甘い生活!!
 サービス編です(笑)と同時に“この事件”を収拾させるための牽制のジャブを放っています。ルシオラ、パピリオの新たな仲間を加えて日常に戻る、というエピソード。脱線ここに極まれり、という感じですが、まあ、でもやはりポイントとして重要なのは昏倒した横島くんに精神ダイブしたルシオラが「横島くんの本当に好きな人は実は美神さん」という事実を見せられるという点でしょう。このシーンはかなりツラく、ルシオラ・ファンの憤慨が目に浮かぶようです。しかし絶対言っておかねばならなかった!「GS美神」の連載を続けるためには「ルシオラが消えたからまた美神さんに乗り変えた」という謗りは絶対に避けたいところ(笑)そしてそれは「これから“キツイこと”するけど、サービスしたから許してくれ」という暗示でもありますし(笑)かなり交錯した思惑がありますが、ここは単純にルシオラ・ファンとして楽しむべきなんでしょうね。

検証その11疑惑の影!!
 謎の人物「芦優太郎」の登場。最初はてっきり美神さんと彼を仲良くならせて横島くんに自分の本当の気持ちをハッキリ気づかせるつもりなのかと思いましたがそうなるまえに芦優太郎はアシュタロスの正体をばらしてしまいます。しかし考えて見れば当然で、たしかに横島くんに「俺、やっぱり美神さんが好きなんだ!」とハッキリ言わせれば、この問題はあっという間に決着がつくのですが、それって最終回なんですよね(笑)それでも、それでも、このエピソードはもう少しじっくりやって言葉に出さずとも読者にジンワリその雰囲気を伝えるべきだったのではなかったかと思います。“アシュタロス編”があまりに長くなりすぎてるのを気にしたということもあるのかもしれませんが、それをしなかったのは、もう読者に納得してもらうことはあきらめて強硬手段に出ることを決意したということだったのかもしれません。

検証その12ジャッジメント・デイ!!
 はい、本当の本当に最後の決戦です!ここまで来てしまえば、後は作者の椎名高志さんがどんな“結論”を出していても全てそれを楽しむつもりで流れるように読んでいました。美神さんがいわゆる“囚われの姫”となり、横島くんとルシオラが協力して彼女を救いに行く・・・な、なんてシチュエーションだ・・・!美神さんがアシュタロスの手によって殺されてしまった時、くどいようですが「横島くんに自分の本当の気持ちをハッキリ気づかせる」事ができたのですが、作者はそれをやらず、横島くんは、いかにも「GS美神」らしい“あいまいな感情の発露”で留めています。(読者には「こりゃもう美神さんに惚れてるんだろ」と思わせても登場人物たちにはそうとハッキリさせない状態)そして皮肉にもここに来て美神さんがいなくなることで、横島くんとルシオラのパートナーシップが発揮され始めます!しかもかなり“回って”ます!(笑)
 この最終決戦の全体を通して感じるのは、横島くんと美神さんの関係に決着をつけるのを敢えて“止めてる”ということ。それは本当にあらゆる意味を込めて。その代わり横島くんとルシオラの別離はキッチリ描ききる。どういう形であれ、どんなに残酷であれ、二人共に「さよなら」を言える状態を作る。しかし紙面にそれほどの悲壮感はなく、逆に「楽に好きなように筆をすべらせてるなあ」と感じました。「打つ手は全て打った。あとは出揃ったシチュエーションを今まで培った『GS美神』らしい展開で料理するのみ」という達観とでも言えばいいのか。しかし事態を解きほぐすため、けっこう展開が支離滅裂に二転三転します(笑)しかし同時にキャラにすごい開放感があります!これはルシオラが『くの一裏切り』の本分(話を盛り上げるだけ盛り上げたら“退場”する)に立ち帰ることで、ルシオラ自身を含めて横島くん美神さんの動きに“迷い”がなくなっているからだと思います。入り組んだ情報が様々な解釈をさせる話になっていますが、はじめから死ぬ気で戦いヨコシマのために死ななければルシオラではないし、ギャグかましてアシュタロスを倒さなければ横島・美神じゃないのです。本当はルシオラが『くの一裏切り』を始めた時点で分かっていたことなのですが、そこに至るまでにいろいろ紆余曲折したのは、椎名さんが本当に「いい娘を殺したくない」のだなあと・・・作家思想ともいえるこだわりを感じます。あと、ルシオラは確かに数ある『くの一』の中でギャグ・コメディという作品世界的にも極端に殺しづらいキャラだったことは間違いないでしょう。“イレギュラー”ではありますが、『ポッと出』のキャラ(こう書くと不快に感じる方もいるでしょうか、それでもルシオラは『ポッと出』です)が加速度的に読者の心をつかみ作品世界さえも揺るがした、稀有な名キャラクターだったと思います。そして、この「ジャッジメント・デイ!!」が「GS美神」の最終回ではなかった以上、この一連のシリーズは横島くんの成長ストーリー“ルシオラ編”だったのでしょうね。

本当にお疲れさま!おヒマなようでしたら蛇足にお付き合いください(↓)
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'98-11/24 LD津金

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