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維新と文明開化「伊藤博文」(田中正雄の世界1)
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伊藤博文・・・幕末の長州藩士として明治維新を迎え、明治政府の中心的人物として活躍し日本の初代総理大臣となる。後にハルビン駅で日本の韓国支配に反抗する韓国人に暗殺される。

 田中正雄先生は非常に優しい絵を描く人である。一言で言うと「血を描かないマンガ家」。凄惨な竜馬暗殺シーンなどを描いたムロタニツネ象先生とは対象的に、戦争のシーンを描いていてもどこかにほのぼのとした雰囲気を感じさせ、まず子供向き歴史マンガに適任と言っていい人だ。その田中先生は子供のころ伊藤博文の友人だったおじいさんから直接、伊藤博文の話を聞いていたという経験を持つ。そんな経緯で描くべくして描いたのがこの「伊藤博文」なのである。
 そんなわけで、このマンガには、このおじいさん「ごん太」が登場し、伊藤博文と明治時代を描いていくのに最大限活用されている。物語は頭は驚くほど良いがひ弱な“青びょうたん”とあだ名される利助(伊藤博文)と力自慢のガキ大将・ごん太が力比べをして、利助は知恵を使ってごん太に勝ってしまうところから始まる。この時、ごん太はすっかり利助に感心してしまい子分となり、生涯の友人としてつきあっていくことになる。
 ペリーの来航により風雲急を告げる幕末に、来原良蔵に見出され吉田松陰の弟子となった伊藤俊輔は、井上聞多らと上海からロンドンへと渡り、その西洋文明の恐るべき威力に「これは攘夷どころではない」と考えを改めて帰国し、長州の攘夷論を取り下げようと進言する。しかし過激な攘夷論者や伊藤の身分の低さが気に入らない者達が闇討ちをしかけて来た!剣の腕には自信がない伊藤たちはたちまち追い込まれ「やはり、桂さんや高杉さんのように、剣の腕をあげておくべきだったかな…」と絶体絶命のピンチ!その時!「ドスコイ!ドスコイ!」と謎の力士が現れ、刺客を一蹴!(笑)「危ないところを救ってくれてありがとう。ところできみは?」「親分が子分を忘れてもらっちゃ困るでよ。ごんの山でごんす」「束荷村の…?ごん太でねえか!」その謎の力士こそ、ごんの山ことごん太だったのだ!(笑)以後、第二次長州征伐まで、ごん太は伊藤のボディーガードとして活躍する。
 明治維新を迎えると、二人はほぼ離れ離れになり文明開化を推進する伊藤にならって、ごん太は「横浜で文明開化に役立つ仕事でも始めよう」と床屋をはじめる。(何故…ああ!チョンマゲ切るためか!)こうして明治政府内部の政治劇は伊藤によって、それによる国情の変化に一喜一憂する民衆はごん太を通して描かれて行く、その中で鉄道、新聞、電信、郵便の施行も伝えられる。ここらへんの構成は見事としか言いようがない。不平等条約の理不尽に民衆は怒り、三国干渉に怒り、ロシア討つべしの気運も高まり、いよいよ日露開戦となれば日本軍の連戦連勝に大喜び!(その間、講和のために奔走する伊藤の姿も入る)「おいらの弟は二人とも“旅順”の攻撃に参加してるんだ。どんなもんだい戦争を始めてよかったろう」と息巻くごん太の友人が、ある日ガックリ肩を落してやってくる。「奉天が落ちたというのにどうしたんだい?」とごん太が尋ねると、「ウワーン。おいらの弟が、二人とも戦死してしまったんだよー!」と泣き出す。なんとも言えず好きなシーンでした。

 そしてある日、韓国統監をやめた伊藤の家にごん太が訪ねて来る。いよいよ隠居すると思ったごん太は、ゆっくり昔話でもしようと思っていたのに、伊藤はこれからすぐ出掛けると言う「最後に満州を漫遊してこようと思うてな。…とはいっても、実はハルビンでロシアの大臣に会って日露の国交を回復させ、アジアの平和をおしすすめようと思っとるのだ。このお土産は船の中で食うよ」という言葉を最後にごん太と別れ、伊藤はハルビンの駅で韓国人安重根のピストルに撃たれてて帰らぬ人となる。…「となりのおじいちゃんが聞かせてくれた伊藤博文のお話は、これで終わりました」と言葉がつながり、老人になったごん太と少年時代の田中正雄先生の会話に場面が移る。田中先生は「おじいちゃんはすばらしい友達を持ったんだね」と言い、「まんがの好きな正ちゃんは大きくなったら歴史まんがをかくといい、ムニャムニャ」と寝てしまう。そして大人になって優しく笑う田中先生が登場し「新憲法が発布された昭和二十一年に百七歳になっていた、となりのおじいさんから聞いた博文の話をもとにして書いたのが、この本だよ。ねえ、やる気になれば人間一生の間にすばらしいことができるんだね」と結んで、物語を終わる。くう〜!何ともいいラストじゃないですか(感)

1999/5/29 LD津金

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