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今週の一番

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#590「トラウマイスタ」ダヴィンチというトラウマ
投稿者:LD [2009/06/15 04:48]
「トラウマイスタ」が終了しましたね。その最終回、とても素晴らしかったです。最悪の敵・ダヴィンチが現われ、最愛の人・スジャータがダヴィンチの手によって爆死してしまってからの展開は、正に“怒濤”という表現が相応しく、そしてその復讐の念の果てに辿り着いた物語の結末はとても美しいものでした。…必ずしも描きたかった全てのエピソードを描けたわけではないでしょうけど、それ故、伝えたい物をシンプルにストレートに伝えた傑作に仕上がっていると思います。

しかし、打ち切りの憂き目の中で(←あ、言っちゃった)いくつか謎も残っています。……なぞって言うか僕が気になっている事なんですけどね(汗)たとえば、スジャータは、漆原シエナのアートマンだとして、スジャータさんって何のトラウマなの?とか。…まあ、これは、考えてみると何となく分かるんですけどね。シエナって多分、「信じていた人間に酷く裏切られた事」があって、それがトラウマになっているんじゃないかと思うんですよ。だから、その特殊能力は人間の本質を見抜く能力“審義眼”なんでしょうね。また、スジャータは、シエナの“シャドウ”(逆性格)と思われます。彼女はシャドウ(反対の自分)を克服する事によってスジャータを掛け替えのない半身として手に入れているはずです。スジャータさんの性格が、(ヒロインとしては?)妙にスチャラカで、自分勝手で、自らの色気で迫り気味な所は、“たまたまのヒロイン像”って事ではなくって、“自己”(人格)はシエナと同一でも、性格はシエナに無いものを持っているキャラクターだからではないかと思います。…つまり、本体のシエナは、おそらく、生真面目で、融通が利かず、内向的(消極的)な“性格”なんでしょう。…同じように、厳ついチャップリンのアートマンが可愛い“ライムライト”なのも、美少女のファーブルのアートマンがグロい“昆注器”なのも、近い設計があるはずです。



…や、ここらへん、ちょっと前に「惑星のさみだれ」を「読む」時に、ユングの本読んだりしていたんで(汗)ああ〜…何か読める読める…というか、この作品もかなりユングな感じだと思います。(※ユングの元型の話は普通の物語でも相応の符合を見つけるのは可能だけど、そういうレベルではなくって、もっと意図的に符合させている)そこらへんから考えて行くと、最後の仲間・センゴのキャラや、アートマンの能力はよくわかっていないのだけど、想像からあたりをつけるとセンゴは“ペルソナ”を強くもっているキャラで、能力もそれに根付くものじゃないかなあ…とか考えたりしています。
…そうすると1巻の最初でピカソが自身のトラウマ、“ゲルニカ”を下した時に現われた“自己の中心に限りなく近い部屋”にいるのは、シエナではなくって“アニマ”(一言で言うならピカソにとっての理想の女性像)であって、シエナに似ているのは偶然……というか“運命”じゃないかとも思うんですけどね…。反魂香、ないしトラウマイスタのシステムによってシエナの“何か”が召喚された…と考える事はできないとは言わないんですけど…ちょっとしっくり来ません。…ピカソの“トラウマ”が観えるスジャータさんは、ピカソの“アニマ”が観えていても自然な事でね……なんか、スジャータさん、嘘をついたかなあ…?まあ、ここらへんの謎はここまでとして…。



…で、こうやって「読んで」行くと、益々分からなくなるキャラクターがダヴィンチなんですよね。彼はいったい何のトラウマを抱えていたのでしょう?ダヴィンチは当初、複数のアートマンを持つという驚異の人間に見ていました。…それはどういう事かというと「トラウマイスタ」の法則性から考えると複数のトラウマを抱えているって事ですよね?
ダヴィンチの持っているアートマンは、最初僕が観たところ“4つ”に思えました。一つは幼女姿だけど滅茶強のアートマン“モナリザ”、一つはテープの形をした爆弾アートマン“受胎告知”、一つはアートマンを食べるアートマン“最後の晩餐”、そしてもう一つは何だかよく分からないけど浮いている人魂の“あれ”…の4つですね。…まあ、ある意味最後まで謎(?)になってしまった、人魂の“あれ”から解いてしまいましょう。僕は“あれ”をず〜っと何かのアートマンだと思って、その威力を観る瞬間をドキドキして待ちかまえていたのですが……あれ、反魂香ですね!?wんんん〜…ワタチ、気付かなかったアルヨ!(`・ω・´;) なんか他の反魂香と形違うし、浮いているしwダヴィンチはシエナと同じ錠剤型反魂香を飲んでいるのかとも思ったんですが、それは社長も使っていないみたいだし…。愛しのモナを常時、顕現させておくためにあの体勢なんでしょうね。

しかし、残りの3つは何なんでしょう?モナリザって何のトラウマでしょうね?…まあ、幼女に何か嫌な思い出でもあるんですかね?なんか、やたら偏愛(?)しているんですけど、あそこから“心的外傷”というものが、あまり観えてこないんですよね。…いや、まあ、何かあるんだろうって事でもいいんですけどね(汗)じゃあ、モナ・リザの能力って何?基本的にアートマンの特殊能力は、トラウマイスタたちのトラウマに根付くものです。スジャータの“審義眼”は最初に説明した通り。ゲルニカの“嘔吐カノン”はストレスによる嘔吐感を逆に技にしたものだと思えます。ライムライトの“サブリザード”は笑わせられない事にトラウマのある“寒い”能力ですし、昆注器の“擬態”はサナギの変身を夢見たファーブルの心の投影です。…で?モナ・リザの特殊能力って何なのでしょう?
…ちょっと置いて“受胎告知”を観てみましょう。“受胎告知”って何のトラウマでしょうね?約束守らなかったら殺すぞ?ってトラウマ?ダヴィンチはテープレコーダーにどんな“心的外傷”が?しかも、幼女の“心的外傷”と並列で?何かダヴィンチだけ都合良すぎません?“最後の晩餐”については、シエナは「複製能力」と評しました。…これ本当にそうなんでしょうか?単純に“複製”だとしたら、ファーブルの“昆注器”とかなりかぶっているんですが……いや、それ以前になんで“最後の晩餐”はアートマンを食べるんでしょう?複製するためのエネルギーだとしたら、なんだか燃費が悪いものに感じます。

さて、ここからが「読み」なんですが…。モナ・リザの能力は分かっています。それは“アートマンを食べる事”なんですよね。あの手から出てくる“任意の物体だけを吸引する黒点”の能力は(…逃げられたくない/捕まえたいトラウマ?う〜ん…)アートマンを捕らえるためにあるように思えます。…そして、これが重要なんですが、それは“最後の晩餐”と特性が同じって事なんですよね。モナは気がついたら、アートマンを食べようとします。…しかし、あそこまでモナを可愛がるダヴィンチがアートマンだけはモナに渡さないんですよね。これについては“最後の晩餐”を優先させている。……これは、ダヴィンが二つ違うトラウマを抱えていて、だけどその二つ共が同じ特性を持っている…と考えるより、“モナ・リザ”と“最後の晩餐”は元々一つのアートマンだったと考えた方が自然ではないでしょうか?もともと、モナは周りからはアートマンだと思われ、実際アートマンのように振る舞っているのですが、あれは“最後の晩餐”の一部がダヴィンチの望みを叶えて可愛らしい幼女の姿をしているだけなんじゃないでしょうか?“最後の晩餐”がダヴィンチの望みを叶えるシーンは最終回前にも観ましたよね?そう考えると、モナと晩餐でアートマンの飴玉を取り合うのも、ダヴィンチが晩餐への食事を優先するのも、最期の時に、(あれだけ偏愛した)モナを晩餐へ戻すのも、すべてしっくり来るんですよね。
同時に“受胎告知”も分かるようになります。ダヴィンチが社長に変身(複製?)する時、それを叶えているのは正に晩餐なんですが、“受胎告知”もあれと全く同じものなのではないでしょうか?“最後の晩餐”の特殊能力って、つまり“ダヴィンチの望みを何でも叶え続ける事”で、その途方もない能力故に、他のアートマンを際限なく食して行く必要があったのではないでしょうか?



んじゃ、その“最後の晩餐”の本質たるトラウマとは一体なんだ?……分かりません。すみません(汗)ただ、トラウマの指す象徴って、本人にしか特別な意味を持たないものだから、他の人にはよく分からなかったりするのは当然なんですが(実際、カミーユの“分別盛り”とかもよく分からない。…強引な想像はできるけど)、それでもダヴィンチが3つのよく分からない複雑なトラウマを同時に抱えていた…というよりは、何でも叶う事か、何も叶わない事のどちらかといった1つのトラウマを持っている事の方が1キャラクターとして理解ができるような気がします。……他者の想像を絶するものではありますが、ダヴィンチは“万能感のトラウマ”を抱えていたのではないでしょうか?そう考えると、彼にダヴィンチという名が冠されるのは、単純に芸術家ピカソのライバルとして置かれた意味だけはないような気がしてきます。

そして最期に彼は、ピカソと決着を付ける事も叶わないにも関わらず、全てに満足して退場して行きます。…僕は多分、ダヴィンチもブラフマンに“やられた”のだと思っていますけどねwでも、満足だから良いのでしょう。全てが叶うからこその、渇望と倦怠がダヴィンチにはあったと思います。


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