■グレースは螺旋戦士か?
| | 登場時の三人の関係(画面左の二人がマリエルとオスカー、右がグレース。物語のほぼ終盤までこの構図が保たれ続けるんですが…。
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「ちょ……!オ、オスカー!!??」その時、全国の「とんがり帽子のメモル」ファンの間で激震が走ったと言っていい…。1984年制作で良質な完成度が放送当時からアニメファンの注目の的であった「とんがり帽子のメモル」。リルル星人という地球で言えば妖精にあたるような存在の少女・メモル(当然、とんがり帽子をかぶっている)と人間の少女・マリエルの心の交流を描いた物語。その孤独な少女であるマリエルの人間側のはじめて(?)の友達としてマリエルに接した少年オスカー。
明るく思いやりのある少年としてマリエルに接していたオスカー。メモルの存在を知ってからも、その秘密を守る協力者となったくれたオスカー。「とんがり帽子のメモル」は恋物語を描いているわけではないので、恋人未満のマリエルとオスカーに必ずしも進展があるとは思わなかったのだけど、しかしまさか、そのオスカーが「序列二位」どころか「悪役」とも言えるいじわる娘・グレースに持っていかれてしまうとは夢にも思わなかったのですよ?
グレースは親が決めたオスカーの婚約者で、オスカーに近づくマリエル(彼女にはこう見える)を敵視して何かとマリエルにいじわるな仕打ちをし続けた娘です。オスカー自身も性格の悪いグレースに多少、イラッとくる事があるらしく、けっこう悪し様な悪口を言ったりもしていたんですね。
それが運命の第47話「グレースの秘密」で状況がひっくり返ります。(自業自得な理由で)記憶喪失になってしまったグレースは、オスカーとマリエルの看病を受け続けるんですが、途中で記憶が戻る。しかし、今までと違って自分にとても優しく接してくれるオスカーとの日々に幸せを感じて、ずっと記憶喪失のふりをしていようとするんですね。
まあ、ほどなくメモルたちにばれて、マリエルの知るところとなってしまうんですが…。この時、直前までオスカーはグレースの行為に憤り、グレースを糾弾しようと息巻いて居るんですが……マリエルは寛容・慈愛の心でもって「グレースを許してあげて。彼女はオスカーの事が好きなの。グレースのところに行ってあげて」と諭すんですね。そしたらこのオスカー(さっきまで怒っていたのに)「うん、わかった」とばかりにグレースの元へ行き、仲直りするどころか恋人同士になってしまいます。
| ←…なに?これ?w
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この“超展開”は視聴者もマリエルも予想していなかった。正にマリエル大ショック!な展開(実際に次の回でマリエルは塞ぎ込んでしまう)でした。9回裏までマリエルはパーフェクトピッチを続けてきたのに、ふっと気を許して投げた失投が逆転満塁サヨナラHRになったみたいなもので(ランナー出てないのに!)「ちょ……!オ、オスカー!!??」とwいったい何があったんだ!?とwグレースに脳改造でもされたんじゃないかとw…まあ、構造的に言えばオスカーとグレースの登場回は全く同時で、元々オスカー+グレースはワンセットでマリエルに近づいた……と言えるかもしれないんですけどねえ……。
この展開の意図する所は今に至るも謎で(wikipediaにも出ていない。DVDボックスの付録対談でも話題にされていない)僕の中ではハートフルなストーリーの中でいきなり、もの凄い展開を見せられた事件として、「ロミオの青い空」の「アンジェレッタを見捨てるのか!?この腹黒い兄弟!?」事件と並んで心に残っている出来事です。(なんか、口が滑っていますが「ロミオ」事件はまた別の機会に…)
しかし、これだけ納得できない気持ちを文章に書き綴っていても、本件でグレースの物語をエントリーしているのは、彼女は間違いなく「あり得ない物語」を手に入れた下位ヒロインだからなんですね。グレース・ファンという人がいて「グレースのどこがダメなんだよ〜!!可愛いじゃないか!!」とそれまで歯ぎしりしていたとしたら、この展開に間違いなく手を叩いて喜んだはずなんですよね。(グレースは「負けキャラ」なところがいいんだ!って人はまた違うでしょうけどw)
そして雨宮よりも早くにそれを成し遂げている。しかし、彼女をこの話の主役に置かないのは、今述べたようにグレースが“勝つ”流れ、積上げが今一つみえて来ず、かなりイレギュラーな展開に見えるという事。そして、それ故に、あるいはまだ時代的にも、この「グレースの事件」をみて、他の制作者が「ああ、“それ”をしてもいいのか」という展開にはならず、特に誰が続く事もなく、アニメの歴史において単に稀有にして奇異な事件として記されているのみであるという事があります。
しかし、間違いないのはグレースはただひたすらオスカーだけを見つめ、オスカーだけを追求めていた事。それはやはりここで言う螺旋戦士だったと言えると思います。その一途な一念が、制作者の心をも動かした。そういう出来事だったとしても、そんなに不思議な事ではないんでしょう。
■螺旋戦士・ルシオラ
| | (左)登場時のルシオラ(右)「ワン・フロム・ザ・ハート!!」時のルシオラ。 登場時は厚めの唇(化粧しているって事らしいけど)等に“端”のキャラである雰囲気が顕れていますw |
【ルシオラ事件】http://www.websphinx.net/manken/labo/clmn/j_rusiora.html
【ルシオラ・オンライン】http://c-www.net/bon/lol/index.shtml
ルシオラとは1991年から1999年まで週刊少年サンデーで連載された「GS美神 極楽大作戦!!」の終盤における最強の敵・アシュタロスとの決戦編で登場した、アシュタロスの手下として創造された「昆虫三姉妹」のリーダー格の少女である。最初的だったのが捕らえた主人公の横島くんと恋仲になり、そして決戦の中で死んで行いった悲劇のヒロインです。いわゆる「くの一裏切り」と言われる属性(「サイボーグ009」の「地下帝国ヨミ編」に登場するヘレンなんかが代表的)のヒロインです。
ただ、長い「GS美神」という物語のワンシリーズで死ぬキャラとしては、当時、凄い人気を博しまして、僕もルシオラは好きだったので、世間でどのくらいの認知されているか知りたくて、椎名高志先生のファンサイトに行ってみたんですが(「ワン・フロム・ザ・ハート!!」が終わったぐらいの頃だったかな?)既に「ルシオラ・オンライン」なる、ルシオラ専門のBBSが設置されていて、えらく驚いて笑ってしまった思い出があります。
その細かな経緯の解説は上に挙げた「ルシオラ事件」に譲るとして、僕は彼女が「GS美神」という長寿連載作品に、大きな脅威を与えたヒロインとして評価しています。多くの読者はルシオラがいずれ死ぬであろう事を分かりながら連載を見守っていました。しかし同時に「GS美神」という作品はギャグマンガという事もあって、悪役でもないような女の子を無碍に殺すような事はしない(ちゃんとハッピーエンドを与えてあげる)そういう作品でもありました。ルシオラが多大な人気を持ち「殺さないで!」という声も少なからず上がっているならなおの事です。
しかし、それでもルシオラが死の運命から免れなかったのは、彼女のキャラクターの「強さ」が連載にとって脅威だったからに他ならないのでしょう。彼女が生き続け、自らの道を突き進むのはスパイラル・ネメシス(物語崩壊)を呼びこんでしまう恐れがあった。少なくとも編集はそう考えたんじゃないかと、僕は思うんですね。(だから、ルシオラ編は後半から徹底的に読者にルシオラを諦めさせる模索が散見される)
ルシオラがなんでそこまで強いキャラなのかってポイントを言うと、ギャグマンガのキャラにあるまじき行為、命懸けで横島を愛したからに尽きます。僕はたまにルシオラの話が話題に出た時などに、ルシオラが(人間と寝たら死ぬと分っていて)横島の部屋に忍んで行く「ワン・フロム・ザ・ハート!!」の回を読み直したりするのですが、この回は“本当に”凄いです。
そもそも、ルシオラが何で横島くんに惚れたかっていうと、ちょっと優しい言葉をかけてもらっただけなんですね。いや、一瞬、命も救われているけど、僕はそれはあまり大きな事じゃないと思っていて。むしろ、その時、敵であるルシオラを見殺しにできなかった理由「前に夕陽を一緒にみたから」…これが大きいと思っています。
昆虫三姉妹は寿命を一年に定められている。その事自体は、ルシオラたちは、そんなに気にしていない。疑問に思っていない。自分らが昆虫の化身だという事の影響もあるんでしょうね。「まあ、そんなもんだろ」って思っている。
でも、一年後には自分は跡形も無く消え去るのみだと思っていたところを、横島から「夕陽を一緒に見たから…」という話を聞いて「あ…この人が生きていると、私はずっと残るんだ」って思ったんでしょうね。それは横島からしてみれば、本当に些細な一言に過ぎないし、単に記憶に残るって意味なら、別にアシュタロスも、ドグラも、彼女らを忘れたりしないでしょう。このまま何事もなく終わったら、横島の「一緒に夕陽を見た」思い出だって、アシュタロスの覚え方と(記憶の片隅という意味において)そんなに大差はないはずです。
でも、ルシオラはこの時、その為に生きようと決めるんですね。横島の記憶に残るために生きようと。それは子供っぽい決意なんだけど、ルシオラ自身が自己分析してその事は分かっていて「下っ端魔族はホレっぽいのよ。図体と知能の割に経験が少なくてアンバランスなのね」と言っている。でも、もう、その決意は揺るがないんですね。
その子供っぽい、ホレっぽい心に従って生きようと堅く決意している。そして「私たちの一生は短いわ。恋をしたら………ためらったりしない……!!」と言い放つわけです。
そして昆虫三姉妹にはアシュタロスを裏切らないためのプロテクトが掛かっている。その中の一つのコードに人間と結ばれると自身は消滅するというものがある。それを知っているベスパはルシオラの行動に気がついて、身体を張って彼女を止めに行くんですね。でも、ルシオラもそれを譲る気はまったくない。横島と結ばれて、横島を逃がしてやったら、その後は自分は消滅してしまってもいいと考えている。
人間の尺度から考えたら、非常に馬鹿げた行為にみえるかもしれません。しかし、彼女たちの寿命が一年である事。そして…これが泣かせるんだけどルシオラの正体が「ホタルの化身」である事が分かれば、ルシオラのセリフの一つ一つが胸にせまるはずです。だってルシオラの生き方はホタルそのものなんだもの。それを馬鹿げているなんて言えるはずもない。だから、この項の冒頭に張ったルシオラの「バカ……!(笑)」は命懸けの「バカ……!(笑)」なんです。もう一度観てみて下さい。
そして、そのルシオラの想いと運命を全て知った横島くんから出てくるセリフが「俺にそんな値打ちなんかねえよ!!」っていうのも、もの凄く分かる話なんですね。……分かりますよねえ?分からないなら、この文読んでもしょうがないと思うよ?(´・ω・`)…ちょっと横島くんのセリフ長いんで要約して書きますが…「死んでもいいくらい俺が好きなんて、一晩とひきかえに命を捨てるなんて…そんな女抱けるかよ!!俺にそんな値打ちなんかねえよ!!…でも!俺がお前を助けてやる!!俺がアシュタロスを倒してやる!俺がお前の寿命を何とかしてやる!だから待っててくれ!!俺にホレたんなら俺を信じろ!!」……ってここで初めて横島くんはアシュタロスとの決戦を決意するんですね。っていうか本当に人間的に成長を遂げている。や〜もう、青少年のリビドー丸出しのセクハラ要員の横島くんに、よくぞこのセリフを言わせしめた!って思いますw
……とここまで長々と書き綴ってしまいましたが、ルシオラがヒロインとしてもの凄く「強い」キャラである事は分かって貰えましたでしょうか?こんな文字通り“必死”なヒロインに、作品本来色をもったギャグマンガのヒロインたちが対抗しようというのは、本当は無茶な話なんです。だって「わたしだって横島が死ぬほど好き!」って言い切れるキャラ、他にいないんだもの。しかし…です。
それでもルシオラは勝てないんですね。 それでも横島くんは美神さんの事が気になるんです。 そしてルシオラは退場して行くんです。
…なんで、そうなってしまうのかというと「(当時)30巻以上続けていた連載作品が、途中でポッと出をしたキャラクターに主人公を奪われてしまう話でいいわけがない!」という“力場”が働いたとしか言いようがない。なんか理不尽な事のように書いていますが、これまでの連載マンガを読み慣れた人なら、こういう“力場”が存在する事は違和感を感じないと思います。(むしろ、僕が何を残念がっているのか分からないくらいかもしれません)ルシオラは本当に強烈なエネルギーを持ったキャラだと思いますが、それでもこの「序列のルール」にあえなく散って行きました。
「あかねをヒロイン(序列一位)に設定したんだから、シャンプーが勝っていいわけがない」「成瀬川をヒロイン(序列一位)に設定したんだから、しのぶや素子が勝っていいわけがない」久しく週刊少年誌の連載はこの力学で制御されて来ました。……でも、それって本当にそうなの?…というのが本論の主旨の一つでもあるんです。
2008/05/12
※次回から「ななか6/17」の解説に入ります。
第三回につづく
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